A's編
第三十二話 裏 前 (リィーンフォース、はやて)
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生きる毎日。それは死んでいるのと何が違うのか。それはただ生きているだけの屍だ。自分の思いを伝える人が隣におらず、自分と想いを共有してくれる人もおらず、自分の悲しみを分かち合ってくれる人もいない。それは、果たして幸せと言えるのだろうか。
はやては声を大にして、それは否、と答える。
だから、家族を二度も失った―――奪われた世界にはやては絶望する。
―――ああ、この世界は自分を幸せにするつもりはないのだ、と。
最初の家族は、ある日突然目の前から失踪した。今までこんなことは知らなくて、毎日が宝石のように輝いていた日々は、ある日突然鈍色へと変化した。彼らと出会う前と変わらない生活であるはずなのに、はやての風景は鈍色から変化することはなかった。
二度目の家族は、そんな寂しさを埋めてくれた。はやてに一人ではないことを伝えてくれた。隣にいる人の温もりがこんなにも暖かいと教えてくれた人だった。だが、その人も、本心から近づいてきたわけではなかったようだ。彼女に真実を教えてくれた人の話を聞けばそうだ。彼の話が嘘か真か。それははやてにはわからない。だが、状況証拠はそろいすぎていた。疑心暗鬼にはなるには十分なほどに。
だから、はやては二度目の家族―――蔵元翔太と一緒に夢を見ることを望んだ。
夢の世界であれば、真実がどうであれ、彼ははやての家族だったから。たとえ最後は偽りだったとしても、泡沫の夢の中でぐらいは、許してほしかった。
しかし、世界というのはそうも甘いものだけでできているわけではないようだ。どういう仕組みになっているかわからないが、覚めるはずのない夢の中で彼は目覚めてしまった。ひとえに彼の精神力によるものか、はたまた、はやての中にわずかに残った翔太の真意を確認したいという想いによるものなのか。
確かに状況証拠は残っていた。しかし、逆に言えばそれだけだ。もしかしたら、と思うほどに状況が整いすぎていた。ただ、それだけで翔太から直接聞いたわけではない。それでも、はやてが翔太と会談せずに強制的に同じ夢を見せたのは、彼女がこれ以上傷つきたくなかったからだ。
翔太のことは信じたい。だけど、もしも、万が一、翔太が本当に裏切っていたのだとしたら。今度こそ本当にはやては何も信じられなくなるだろう。もはや夢を見ることもなく、ただ世界の終わりをただただ願うだけの存在になってしまうに違いない。だから、はやては翔太を強制的に夢に誘ったのだ。
そんな彼から話があるという。これ以上、傷つく可能性を論じるならば、はやては断るべきだっただろう。だが、それでも、それでも、一度は信じた彼の口から真実を知りたいという欲求を抑えることはできなかった。事実を教えてくれた人が嘘を伝え、翔太が真実である可能性を捨てたくなかった。だから、
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