A's編
第三十二話 裏 前 (リィーンフォース、はやて)
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は何を言うのだろうか、と驚愕ともいえない感情に彩られている中、渦中のはやては勿体つけるように悩んだそぶりを見せて、やがてその小さな口をゆっくりと開いた。今まで後悔と血と涙に彩られた旅路を延々と歩んできたこれ以上ないぐらい彼女の存在を体現している闇の書という名前を塗り替える新しい名前を。
「祝福の風―――リィンフォース」
祝福の風、リィンフォース。だが、その名前を名乗るのは、この数時間だけだろう。この名前は新しい主から賜った大切な名前。この旅路が終われば、また自分は闇の書へと戻る。
だから、この数時間だけは、主から新しく賜った名前を誇れるように振る舞おう。せめて、主の最期の眠りへの安寧は守ろう。
それが、闇の書―――もとい、祝福の風、リィンフォースの新しい決意だった。
◇ ◇ ◇
ゆめ、夢を見ていた。
それは少女が―――八神はやてという小さな少女が夢見た小さな幸せな夢だった。
彼女の夢には彼女が唯一と言っていい家族たちがいた。
シグナムが、シャマルが、ヴィータが、ザフィーラが。彼らと時に喜び、時に怒り、時に哀しみ、時に楽しむ。そんな当たり前の家族のような生活をさまざまな状況の中で夢見る。
たとえば、彼らとは本当の家族中で過ごした。四人兄妹という関係の中、彼らは日常を謳歌する。
たとえば、彼らは表向き学生を行いながらも、非日常の中で魔法を使って世の中を守る魔法少女だった。
たとえば、彼らははやてが生きた現代とは程遠い異世界と形容するにふさわしい世界でパーティとして動く集団だった。
はやてにとってそれらは本当に幸せな夢だった。彼らとはもっとこんな風でありたいと願った、願ってやまなかった願望というものだったのだから。だから、夢を夢と認識していなかった彼女からしてみれば、その世界に生きていることこそが幸せだった。
たとえ、それが泡沫の夢だったとしても、偽りの夢だったとしても、最期の憐みだったとしても。
はやてはそれらを理解しておきながら、受け入れた。その夢を見て果てることを受け入れてしまっていた。
闇の書の管理人格―――彼女が命名したところによるとリィンフォースに名を与えたのは手向けのつもりだった。闇の書に感謝しているのは本当だ。彼女がいなければ、はやては家族という幸せを知らなかったのだから。
だが、その幸せを知ってしまったがゆえに世界に絶望してしまうとはずいぶんと皮肉だ。
ならば、知らなければよかったというべきなのだろうか。それも否だ。はやては誰が何と言おうとも、ヴォルケンリッタ―と出会う以前の生活を認めない。家族を知らなかった頃のはやてを幸せと形容させない。
家族という幸せを知らず、淡々と一人で
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