A's編
第三十二話 裏 前 (リィーンフォース、はやて)
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て。
そう言いながら、はやては笑う。
闇の書の管理人格は、はやての言葉に、はやての表情に驚愕する以外になかった。
―――なぜ、なぜ、笑えるのですか? 私の存在を受け入れられるのですか? 私のせいで、あなたは死地へと誘われているというにっ!?
それは、驚く闇の書の管理人格が、八神はやてを理解していなかったから、というほかにない。彼女は理解していなかった。わずかな時間であろうとも、闇の書が彼女に与えたものがいかに彼女の人生を変えたのか。
わずかな時間だった、最後は死地へと連れて行くものだった。
万人が闇の書を厭うだろう。疫病神だと罵るだろう。だが、そんなものは八神はやてには関係なかった。あのわずかな時間こそが、すべての始まりで、今の八神はやてを形作っているのだから。
「確かに……私は、闇の書と出会わんかったら、別の幸せがあったかもしれんな。でも、私は………みんなとの幸せ以外は必要ないんや」
闇の書と出会わなかった運命。もしかしたら、本当の両親と囲まれているのかもしれない。あるいは、両親を失ったことで、児童施設へ預けられて、守護騎士たちよりも多くの兄妹に囲まれて過ごしたかもしれない。だが、本当はどうなったかは、神ではない彼女たちが知る由もない。
だが、予想される幾つもの人生も八神はやての中では意味を持っていなかった。
なぜなら、この人生こそが八神はやてにとってのたった一つの幸せだと胸を張って言えるからだ。それ以外の幸せなど想像できるかもしれないが、必要はなかった。シグナムと、ヴィータと、シャマルと、ザフィーラと、家族と過ごした生活こそがはやてにとっては幸せだった。
だから―――
「だから、ありがとうな」
それを与えてくれた闇の書に憎しみでもなく、後悔でも、侮蔑でもなく、感謝を。自分が知らなかった幸せを与えてくれた心優しい書物に対してただただ感謝を告げるはやて。
小さな主の口から零れた感謝の言葉を聞いて、闇の書の管理人格である彼女は驚きのあまり目を見開き、その言葉を噛みしめるように目をつむった。その直後には、頬を流れる一筋の雫。その雫に込められた想いは、歓喜だろうか、悲哀だろうか。
そんな彼女の瞳から零れる雫を拭うように手を伸ばすはやて。やがてその小さな手は、車いすのそばに傅いていた管理人格の頬に当たり、零れていた雫をぬぐう。はやての人差し指に数滴の雫がついたころに、不意にはやてがふっ、と笑みを浮かべる。どこか面白いことを思いついたように。
「なぁ、闇の書いうんは、あなたには似合わんと思っておったんよ。だから、私があなたに新しい名前をあげる」
はやての言葉を聞いて、今まではやてにされるがままになっていた顔をはっ、と上げる。
この主
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