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乱世の確率事象改変
戦場に乗せる対価は等しからず
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の空白を余儀なくされる。
 真桜と流琉は、一寸だけ驚いた顔に変わった後、何も言わずに走り去って行った。

 未だそこかしこで戦闘の音が聴こえる。
 自分がしっかりしなくては、猪々子に任せるだけでは不安が大きい。
 だから、と。斗詩は生唾を呑み込んで目を瞑った。何か大きなモノを、自分の中に呑み込めるように。

「が、顔良様……?」
「どうしました?」
「そ、その……」

 言いよどむ隣の兵士を不思議に思った。振り返ってみると、皆が一様に驚いた顔をしていた。
 なんで……と思った矢先、自分の頬にナニカが伝った。
 指をそっと辿って、彼女は自分が泣いている事に漸く気付く。

「あ、あれ……? なんで……私……」

 ゆっくり溢れてくる雫は暖かい。哀しいのか、嬉しいのか、斗詩は自分の心の中身が全く分からなかった。
 ただ、先程小さな少女に言われた一言を思い出して、ビシリ……と来る、大きな胸の痛みを抑えられなかった。




 †



 兵士の数が増えれば指示の伝達も容易にはならない。元より袁紹軍は二枚看板が全てを指揮しているわけではない。
 地方からかき集めたそこそこの将も多々居るのだ。
 故に、斗詩と猪々子の指示を待たずして、逃げる弱者を追い掛けたくなるのは人の性としても、戦功を得たいモノ達にしても、当然であった。
 空に鳴り響いた甲高い音を合図に、曹操軍の攻勢は全くなくなった。追い駆けて殺せばいいだけになったのだからと、袁紹軍は部隊を散開させて追撃にあたる。
 城の出入口を塞いでいるのだから、敵は纏まって無理やり逃げるしかないだろう。誰であろうとも、そんな考えが浮かぶ。

 予想通りに、曹操軍は一か所に集まっていった。ただし、その場所は入り口などない城壁の角。自分から追い詰められて何をしようというのか……油断と慢心は広がって行く。
 辿り着いた其処で、袁紹軍の兵士達は唖然とする。

「お、おい、曹操軍は何処に消えやがった!?」
「皆こっちに走って行ったってのに……なんでこんなに少ねぇんだよ!」

 見やれば、余りにも敵の数が少なすぎた。一つの物置を守るようにして、曹操軍は陣形を組んでいた。それも徐々に小さくなって行く。
 しかも区切られた空間であるが故に攻め切れても居ない。何より、煙のように消えた大量の兵士の行方が気になって集中力すら削られる。
 浮足立った敵に対して、その少数の士気は格段に高かった。
 さもありなん。彼らには御旗が居る。見た目はただの少女ではあるが、重量武器を軽々と振るい放たれる暴力は格が違う。
 ある者は白馬で見た。突撃が得意な猪々子の部隊に臆することなく戦った少女を。
 ある者は延津で見た。味方ですら恐怖する張コウ隊相手に生きぬいた少女を。
 その二
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