戦場に乗せる対価は等しからず
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斗詩は心を落ち着けて行った。
「……勝たないと、救われない、ですからね」
生来、心優しい斗詩は戦には向いていない。
生きたいし、死にたくないし、殺したくない。自分でも自覚していた。
それでも尚、戦う事を選んだならば、せめて自分達の描く世界を掴まなければ意味が無い。これまで犠牲にしてきた命に報いる為にも。
雰囲気が僅かに変わったと、流琉も真桜も感じ取る。
「まだ、戦いますか?」
戦場は膠着。隔絶した武の持ち主の戦闘には、兵士が立ち入るは無粋というより足手まとい。あの延津のような乱戦にするなら別であるが。
故に、この問いかけは正常。武人同士の戦いを続けるか、それとも血みどろの戦場を繰り広げるか、どちらか選べと言っているのだから。
流琉の放つ気迫に隣で螺旋槍を構える真桜の頬が緩む。
――こーんなちっこいくせに、あの人らみたいに思えるんやから……不思議やなぁ。
白馬の戦場を経験した自信からだろう。そこまで実力も高くない真桜は、自分よりも年下ではあるが流琉に背中を任せる事にためらいは無かった。
まるで春蘭達のような頼れる姿。幼いからこそ、彼女は日々年々成長していく。
二対一では確実に分が悪い……斗詩が回す思考は幾重にも及んでいた。
こちらの策がばれている以上、深追いして兵数を減らすのは拙い。どちらか一人でも捕えられればなんらかの手も打てるが……官渡の内部では曹操軍が有利過ぎて戦い難かった。
「……一旦立て直します。この場は捨て置いてください。同時に袁紹様に伝令。烏巣は失敗、とだけ」
周りに居る兵士達に指示を出し、斗詩は大槌をすっと下げた。警戒する流琉と真桜はじりじりと後退していく。
――どっちにしろ官渡に居る曹操軍は袋のネズミ。出入り口は完全封鎖してあるから……逃げられないし逃がさない。
戦の通常思考で下した判断から、彼女は味方兵士の生存優先を選んだ。
「ふっふー、此処で逃がしてええのん?」
悪戯っぽく真桜が笑う。挑発か、はたまた嘲りか。真意のほどは見えず、もやもやと心に不快さが湧く。
「あなた達は勝ったら麗羽様を殺すでしょう? なら、私達は勝たないとダメなんです」
大切な人を失わない為にも、夕が選んだ選択を無駄にしない為にも、ただ勝利を……希う心はもうブレない。どんな手段を使おうとも勝とうと決めた。
「……さいで。ほな流琉、ウチらが最後やろうし行くで」
「……一つだけ」
寂しげな色を浮かべて、流琉が口を開いた。じ……と見つめる視線は真っ直ぐに斗詩の胸を射抜く。
「あなたは、きっと悪くないです」
ぽつり。小さな小さな少女が口にした言葉は、涼やかに流れて消えた。
しかして耳に響いた音の優しさに、斗詩は思考
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