戦場に乗せる対価は等しからず
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は間違いなく自分よりも上の実力を有している。本来なら相対することなく逃げを選ぶが、今回は逃げずともよかった。
「まだ、戦いますか?」
ペパーミントグリーンの髪が揺れる。少女の声音は甘く、されども厳しく、真桜の前で震えている斗詩に突き刺さった。
真っ青な顔色は疲れからか、滴る汗は焦りからか……否、彼女はまだそれほど長く戦闘をしてはいない。
では恐怖か。それもまた、否。
目尻に浮かぶ涙の意味も、膝を付きそうな程震える脚も、違う理由からであった。
「もう一回確認しよか? 紅揚羽は裏切った。でも、裏切るに足る理由が袁紹軍にはあった……ちゃうか?」
ズバリと言い当てられる。それほど分かり易く、斗詩は動揺を隠せないでいた。
自分と主が良かれと思ってやった事が、絶望で足掻いていた少女をさらに追い詰めたのだ。胸に来る虚脱感は……それでも笑顔で涙を零し、自分達を憎まなかった少女への懺悔に埋まる。
斗詩の心には恐怖も湧いている。血と絶望を餌に育った狂犬を縛り付けていた鎖が解けるのがどれだけ恐ろしい事か、自分の命も、親友の命も、主の命も……希望が持てない。
もう少し、もう少しだったのだ。新しい友達で、蟠りが解けたから仲良く笑い合えるはずだったのに……斗詩は初めて、夕と明の絶望の一端を実感する。
――あの二人は……こんな事を繰り返して、それでも諦めなかったっていうの?
希望を持っても叩き潰される。味方だと思っても信じられない。足の引っ張り合いで全てが台無しになっていく。
否、斗詩の感じているモノはほんの些細なモノに過ぎない。
長い長い年月を掛けて積み上げたモノが一瞬で崩されるのは、正しく絶望するに相応しい。
――夕ちゃん、どうしてあなたは……私を責めなかったの?
最後の笑みが哀しいモノだったのだと気付いてしまえば、懺悔を感じずにいられない。
彼女は何を望んで自分の口を噤ませた? 頭を回せば答えが見つかる。
――自分が殺されると分かっていても、私がしている事が原因だと分かっていても、夕ちゃんは何も責めずに受け入れた。麗羽様の、邪魔をしないように。
何故、どうしてと考えた先で見つかったのは、漸く一人で奮い立てた主の姿。
自分を支えている臣下に、そして必死で抗っている友達にナニカを返したい。そう思ったからこそ麗羽は、仮面を脱ぎ捨てられた。最初の一歩を踏み出せた。
他者の心を踏み躙らずに、自分を犠牲にしてまで麗羽の成長を選んだ。
嗚呼、と甚大な悲哀が込み上げる。沸々と湧き立つ不甲斐無さは、斗詩に力を与えていた。
二対一。奇しくも延津と同じ状況。しかし、心情は全く別。
――だからっ……私は……せめて彼女の望んだ勝利の為に。
真桜からの問いかけには応えず、
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