戦場に乗せる対価は等しからず
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ならお前が動けばいい。生憎、我らはお前達袁紹軍と戦う事で忙しい」
「なんで、だよ……明……」
もはや秋蘭の言葉は耳に入っていなかった。それほど、猪々子は明と夕の事を信じたのだ。いや、明が夕を信じなかった事が、信じられなかったのかもしれない。
絶望に揺れる眼。慄く唇と震える肩。兵達を鼓舞するはずのその大剣でさえ、するりと落としてしまいそう。
――そうか……お前は張コウの事をそれほどまでに……。
憐みの視線を向けた秋蘭は、小さくため息を吐いて弩を兵に投げ渡す。
「おせっかいは此処までだ。後は自分達で決めればいい。華琳様の望むまま、我らは我らの仕事をするのみ……。
それでも向かってくるなら……容赦はせん」
コクリ、と季衣に一つ頷いて合図を送った後、片手で矢を取り出して口に咥え、同じく片手で構えた弓に器用に番えた。
その矢の形は通常のモノでは無い。先端は人を殺すためには出来ていないモノ。
雲一つ浮かばない晴天の空に向けて、キリキリと弦を引く。
――私がこの道具の産声を上げるに相応しいと言っていたが……まあ、悪い気はしない。
彼の配慮に、少しだけ頬が緩まった。コレは大陸で使われる初めての道具。
黒麒麟の嘶きと同じく、彼がこの乱世に齎そうと決めていたモノ。
弾けた音が一つ。掻き消すように、高らかな音が戦場を引き裂いた。
鏑矢……彼が使用を考えていた伝達道具。
天に上る矢は高く鳴く。鳥が高く高くと昇るように。日輪に向けて。
意識を引きつけられた敵は空を見上げ、反して曹操軍はすぐさま、誰しもが戦闘を止めて走り去る。
「なぁ……明……なんで、だよ……あたいたちは……」
――信じてたのに……お前は……。
追撃を命じることも出来ず。
その美しい音に引きつけられることなく……薄緑の髪を揺らす少女は、裏切りの絶望に打ちひしがれていた。
†
「おぉっ……やっぱりめっちゃええ音やなぁ。さすがウチ」
高らかに響く合図に真桜はにししと笑いを一つ。
鏑矢は彼が考案して、彼女が作ったモノだ。自分の腕の良さに自画自賛するのは良くないが、完成品が使われるのは例え戦場であろうと嬉しくもあった。
黒麒麟の嘶きは既に敵軍に使われている。指揮系統の混乱を避ける為には、何かしら別の道具を使うべきとは誰もが考えていた。銅鑼や太鼓など、官渡全てに指示を響き渡らせるモノは多々あるが、敵が使わなくて敵の意識を引きつけられる派手なモノの方がいいに決まっている。
如何な曹操軍であれど、万単位の兵力差は覆しようが無い為に、躊躇いなく使う事を決めた。
「で? 顔良はん。あんたはどないするん?」
笑みを浮かべたままで言い放つ。
目の前に居る将
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