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異々、心葉帖。ことこと、こころばちょう。〜クコ皇国の茶師〜
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も、穴の方が明るいなんて変なの。いつもは白くて綿菓子みたいな雲が、今は真っ黒で月の側に近づいた時にだけ、ほんのり色づくなんて。
蒼は自分がしようとしていることを笑われた気がして、ちょっとばかり熱に色を変えた舌をべーと伸ばした。それは拗ねからの行動だったのだが。ついさっき急いで飲んだお茶に悪戯された舌が夜の涼やかさに撫でられ、蒼の小さな鼻が鳴った。お茶がくれた熱が、身体から攫われていくようで。暖かさを逃さないよう、蒼は再び足を動かすことにして、相変わらず静かにそよいでいる星影の上を、今度は跳ねていった。
敷地内とはいえ、お店と反対の方向にある蔵へ辿り着くためには、菜園やら池やらを抜けなければいけなくて。小さな足の蒼にとっては結構な時間がかかってしまう。瓦屋根を乗せた石造りの建物も、なかなか途切れてくれない。
こんな夜遅くに子どもがひとりで暗闇の中をうろつくなど、普段ならば両親の勢いの良い言葉の下敷きにされてしまうことなのだけれど。運良く、今日は父親も母親も『おとなの付き合い』というものに出かけてくれていた。
蒼は寝台に潜り込む前に、両親が店で瓶の手入れをしている背中を見つめているのが大好きだ。そんな『お父さんお母さん大好きな蒼』にとっては寂しいことなのだが、今の『冒険者の蒼』にとっては、願ってもいない機会だ。
めったに吸い込むことの出来ない、少しばかりひんやりと頬に染みてくる空気をめいっぱい吸い込む。蒼は、誰も見ていないのに、緩んでいく口元を小さな両の手で覆った。夜に浸っている場合ではない。蒼には、寝所を抜け出してまで見たいものがあるのだ。
どれ程、歩いたのだろう。
ふわりと桜色の唇から出た白い息が綿毛のように宙を漂い、空気に溶け込んでいった。蒼は、予想以上に肌を刺す寒さに、だるま顔負けに着膨れた身体を震わせた。頭の横で結んだ髪の結紐をといていけば首は暖かいと、襟巻きを置いてけぼりにしたのが良くなかったかも知れない。
そんな蒼にお構いなしにと、腹に宝物をいっぱい詰め込んでどっしりと座り込んでいる蔵が、徐々に瞳の中で大きさを変えていき、それにあわせて胸もばくんばくと煩くなる。見上げるとひっくり返ってしまいそうなほど大きな蔵を囲んでいるのは竹やぶだ。風に揺れる背の高い竹が不気味に笹葉を舞わせてくる。その笹の葉が瓦屋根に静かに舞い落ちる。
蒼はゆっくり転ばないようにと石の階段をあがり、蔵の大きさには不似合いの小さな穴へ鍵を指す。魔道の力が込められた鍵には大きさなど関係ない。そう五つ上の兄から聞いてはいたが、実際のところ半信半疑だった蒼は、あっけなさに目をしばたかせた。古さから硬いと思っていた扉も、幼い蒼の震えた掌でも案外簡単に身を引いていってしまったものだから。
「おじゃましま……す?」
思いがけず、
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