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横浜事変-the mixing black&white-
人間はいつだって解読不可能な怪物である
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、撃てよ」

 「……言われなくても、貴方は殺しますよ。これ以上のペース配分は許されない」

 その言葉に間を挟む事なく、少年は眼下に立ち尽くす復讐相手に銃弾を叩き込んだ。

 大河内の脳天から多量の血液が噴き出し、抵抗なく崩れ落ちたのを見て、少年は安心したように神経系をシャットダウンした。

 定められた人生の中でやり残した事を、綺麗さっぱり終わらせたとでも言うように。

*****

同時刻 横浜中華街

 ミル・アクスタートは非常に悩んでいた。自分でも何が原因なのかは分かっている。だからこそ、それは大きな問題だった。

 自分が描く『殺し屋の生き方』を取るか。社長の『路上ゲリラライブ』を取るか。いつもならば構う事なく後者を選ぶミルだったが、今回に限っては簡単に決断を下すのに意志が必要だった。

 ――私はこの街で何かを学べただろうか?

 ――時間なら腐るほどあった。でも、私がそれを有効に使っていなければ話にならない。

 ――私は、殺し屋の意義を再確認できたのだろうか……?

 横浜に来てから、ずっとそればかり考えてきた。ロックバンド『ヘヴンヴォイス』としての『自分』を直視し、冷静に分析して、自分に自信がなくなった。だから、裏切り者の大河内と手を組んで、『本当の殺し屋』を見い出そうとしたのだ。

 しかし、今の自分は本当に変われたのか。もし自分が『理想の殺し屋』へと進化したのなら、そもそもこの場面であくせくしたりはしないのではないか。

 ――……変わってない。何も、たった一つでさえ。

 ――殺し屋にもなれず、ただの人殺しのままだ……。

 やがて周りの音が聞こえなくなってくる。何も捉えたくないとばかりに視界が薄暗さを帯びる。それは自分の瞼の裏だ、とミルは心中で呟いた。

 そのとき、いきなり右肩を軽く叩かれて身体を強張らせる。目の前がパッと()けて、ルースの嬉しそうな顔が飛び込んでくる。

 「あのチャイナの姉ちゃん、やってくれたぜ。楽器も揃ったし、これだけの観客がいれば社長も文句なしだわな」

 「ほら、見ろよ」とルースが指をやや右の方向に示す。それに従って視線を動かしたミルは、その先に広がる光景を見て思わず「え?」と声を漏らしてしまった。

 南門の真下にいる彼女らを取り囲むようにして、計り知れない烏合の衆が出来上がっていたのだ。歩道は愚か、車道すらも完全に人だかりで埋まっている。その後ろでは中華街に入りたい乗用車が乾いたクラクションを鳴らしていたが、やがて諦めるようにその場をゆっくり離れていく。

 「警察は……」

 「気付けても、今はそれどころじゃないだろ。なにせ、な」

 憐れんだ目をしたルースが言葉を濁らせた。そう、今この街では前代未聞
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