雨と休日
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の週末とかに」
「連れてってくれるの?」
「いいわよ」
皿はすっからかんになって、その内に下げられた。
若い女性はコートを着ている最中で、席を立つ所だった。ペンもノートも分厚い本もバッグに身を隠しているようだ。
「どうせ京都に行くなら、他の所も回りたいわね」
「そうだね」
「京都って何があるのかしら?」
「お寺じゃないかな?」
「そんな事は知ってるわよ」
「後は、お店もあるよ」
「どんなお店?」
「ここら辺にもあるようなお店」
「そんなの、京都に行く意味ないじゃない。あなたが以前行った時はどこに行ったの?」
「随分と昔だからな。もう覚えていないよ」
「しっかり調べてから行かないとだめね」
「これから、本屋でも行って見てみようか?」
「この雨の中、本屋まで歩くの?」
「いや、きっともうすぐ止むよ」
「そんな事、なんであなたに分かるのよ?」
「テレビがそう言っていたんだよ」
僕たちは会計を済ますために、席を立った。陽子は雨合羽と傘を手に持ち、僕は傘を手に持った。
年寄りの女性はまだ、本を読んでいる。
外は、まだ雲が大きく広がっているままだけど雨は止んでいた。
「本当に雨止んだわね」
「そうだね。傘が邪魔になっちゃうな」
「私なんて合羽もあるのよ」
「しかし、なんでまたその合羽はそんなに派手なんだ?」
「知らないわよ。合羽に聞いてよ」
僕が合羽に向かって「なんで?」と聞くと、「知らない」と陽子が答えた。
僕たちは手を繋いで、近くの書店まで歩いた。大きな水たまりをよけながら、ちょっとずつ歩いた。
「京都楽しみね」
「たぶん、君よりも僕の方が楽しみだ」
「ふーん、そう言ってくれると連れてく甲斐があるわ」
雨に濡れた冷たい空気が僕たちを包んでいたけど、繋がれた手はとても暖かかった。
「言っておくけど、京都に行ったら、日曜日は君を朝に起こすから」
「えー」
「その日くらいしっかり起きてくれよ」
「えー」
「誕生日プレゼント。それにしよう」
「それ?」
「陽子が僕のために早起きをするんだ」
「えー。まあでもそれならしょうがないわね。久しぶりの日曜日の朝だわ」
大きな水たまりの上を陽子が飛んだ。僕もそれに続いて飛んでみる。
「それにしても、あなたは誕生日プレゼントを二つもねだるなんて。なんて欲張りな人間なんだろう」
そう言って、陽子が笑う。
「そう、僕は欲張りなんだ。その点で君と僕はよく似ている」
「そうね」
僕たちの休日が静かに終わっていくのを、陽子と一緒に眺めている。
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