雨と休日
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「分かりたいけどな」
「いいの、分からなくて。大体、分かったって何の意味もないんだもの」
「意味のない事柄なんてあるのかい?」
「ごくたまにあるのよ」
「……まあいい。僕はハンバーグを食べるよ。君と違ってダイエットをしていないから」
「ええ、あなたは好きなものを食べたらいいわ」
ボタンを押すと、店員がやってきて僕たちから注文を取った。僕はハンバーグとライスを注文して、陽子は小さなサラダとホットコーヒーを注文した。
地味な色のウインドパーカーを着た男性はもういなかった。変わりにその席に座っていたのは老夫婦で、向かい合って何かを喋っている。
「雨、止まないわね」
椅子の背に掛けられたド派手なピンク色の雨合羽はまだ、十分に水分を保っている。
「そうだね、今日は一日雨だって言ってたよ」
「誰が?」
「テレビが」
「あなた、テレビなんて見ない人じゃなかった?」
「見たんだ。今日はね」
「なんで?」
「別にいいじゃないか。たまにテレビを見るくらい」
「ええ、別にいいんだけど、普段見ない人だから」
「天気予報が見たかったんだ。それだけ見てすぐに消してしまったよ」
「あなたの部屋にある三十二インチのテレビが泣いてるわね。たまにつけて貰えたと思ったら、すぐに消されちゃうなんて」
「たくさん、休ませてあげてるんだよ」
「なんとでも言えるわよ。……ねえ、それよりもうすぐあなたの誕生日じゃない?」
「そうだよ」
「何か欲しいもの、ある?」
「そうだな。……今すぐには思い付きそうにない」
「何かあるはずよ。考えてみて」
「もし何か欲しい物が見つかったら、君が買ってくれるの?」
「お財布と相談しながらね」
そう言う陽子の首元には、先月僕が彼女の誕生日に贈ったネックレスが輝いていた。
「欲しいもの……というより、行きたい所がある」
「行きたい所?」
会話の途中で、サラダが運ばれて来た。僕のハンバーグもその後すぐにテーブルの上に並ぶ。
「……で、どこに行きたいの?」
「京都に行きたいんだ」
「京都?なんでまた」
「宇治に行きたいんだ」
「宇治?」
「抹茶のおいしいところだよ」
「あ、宇治抹茶!」
陽子は目を大きくして、一回だけ瞬きをした。
「でも、なんでまた宇治なの?」
「昔、一度だけ行った事があってね。すごくよかったんだ」
「何がよかったの?」
「なんだろう……静かだった」
「静か?それだけ?」
「それだけ。あと抹茶アイスは美味しかったよ」
「そう。じゃあその宇治に行く?誕生日は平日だから無理だけど、その次
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