暁 〜小説投稿サイト〜
自殺をしたら魔王になりました
第一部 異世界よこんにちは
第一章 僕は死んだはずなのに
第三話 僕にこんにちは
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けていて、その内部を窺い知ることは出来ないが、何者かが召喚されたのだろう。何はともあれ第一段階の召喚は出来たようだが、契約が完了するまで気は抜けない。

 けれど、先ほどから背中に汗が流れていて気持ちが悪い。儀式を始めたときは吹いていなかった風が、止まらない汗と相まって徐々に身体を冷やしていく。何か嫌な予感がする。私は勘が鋭いわけではないが、頭の中で何やら警鐘が鳴り響いている。何か私は失敗を犯したのだろうか。魔方陣の書き方を間違えた。詠唱の文言を間違えた。そもそも召喚の条件自体を間違えた。様々な失敗原因が頭を過ぎっていき、ますます不安が圧し掛かる。

 いつの間にか額にも汗が浮かんでいたようで、雫となった汗が眼に入る。汗が入ってしまった眼を閉じながら、私は手の甲で汗を拭った。すると、召喚陣がキンキンと甲高い音を立て、放たれていた光が弱くなり始め、回転していた召喚陣も速度を落としていく。眼を離した数秒で状況は一変してしまった。言い訳など出来ない。汗など言い訳にすらならない。眼を離してはいけないと、気を抜いてはいけないと解っていたのに、私はあろうことか眼を閉じたのだ。

 このままでは何が起こるか分からない。だから、送還用の詠唱を急ぎ開始する。

「我は天の王よりいただいた力を込めて汝に命ずる。言葉を口にすればその命を成し遂げられん御方によりて、またすべての神々の名によりて至高の主なる神の名において汝を浄め、全霊を込めて我は汝に命ずる。我が求めは果された。汝常夜に帰れ」

 儀式が終わる前に、どうにか詠唱を終わらせる。けれど、召喚陣には何も反応はなく、最早、その役目を終えようとさえしていた。このまま召喚を完了させるわけにはいかない。想定外のことが起きているのだから、意図しないものが召喚されている可能性もある。それが善であるのなら良いのかも知れないが、そもそもが魔王召喚のための儀式だ。まかり間違っても善の者が召喚されるとは思えない。

「我が求めは果された!帰れ!!帰れ!!!帰れ!!!!帰れ!!!!!帰れ!!!!!!」

 けれど、私の意思とは関係なく召喚陣はその役目を終え霧散してしまった。

 私は結界陣の中でへたり込んでしまった。脚に力が入らず立っていらない。身体も冷え切り寒さが身を刺す。こんな寒いなんて、この結界陣にも不備があったのかな、なんて考えも浮かんでくる。不意に視界が霞んで悪くなった。ああ、きっと私は泣いているんだろう。八年前のあの日。もう泣かないと誓った。誓ったはずなのに、際限なく溢れだすのだ。

「……どうして。帰ってよ。おねがい、かえって……よ」

 そして、歪んだ視界の先に一つの影を見つけて、私は意識を手放した。
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