虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・結の章
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感じたことのない神気のようなものを感じてそこに行くと、赤ん坊がいたのだ。
普段の彼女/彼は赤子がいたからどうなるという訳ではない。彼女/彼は人間にちょっかいを出し、破滅に追い込み、それを冷笑するのが趣味であり生業だ。人に狂気と混乱を齎し、来たるべき時には人を滅ぼす。そのような存在だった。
ところが、人の姿で歩いていたのがまずかったか、仏という存在に一杯喰わされた"彼女"は何の因果かこの世界の舞台装置の管理役を任されてしまったのだ。どうやら赤ん坊を最初に見た存在が親になる、という慈悲の運命を赤子に握らせてこの世界に落としたらしい。今は人間の社会で言うシングルマザーと形容される存在に身をやつしている。
仏など脆弱な存在だと思っていたのに、なかなかどうしてこのような方向から引っかかるとは思いもしなかった。言うならば期限の決まった契約で、その契約中は私は母親としての責務を免れないようだ。
「まぁいいけど。あれは仏の子ではあるけど寿命は人と同じなのだから、あと数十年もすれば自立して私も親の役目から解放されることになるさ。何も無理をして制約を抜け出す必要もない……だからそれまで精々世界を壊し続けてやろう……私が壊し、あの子が補完する。果たして役割が終わるまでに何度世界は滅びかけるのかな……ふふふ」
どうせ彼女にとってその程度の時間のロスなど悠久の時の中のほんの一瞬でしかない。
だから仏の仕掛けに敢えて乗った上で、この「万能調停者」がどこまで世界を救えるのかを試して遊ぶ。
そう、これは暇つぶし――と考えていると、家の二階からどたどたとせわしない足音が下りてきた。
「母さん母さん!潰した筈の虫が消えちゃったんだ!一体どこにいったのかなぁ?」
「何言ってるのよ。虫が消えちゃう訳ないでしょ?どうせ机の隙間にでもすっぽり入っちゃったのよ。いいから手を洗いなさい?もうすぐご飯が出来るわよー」
「今日の晩御飯は何?創作料理はもう嫌だよ?母さんの創作料理って軒並み食欲がなくなる外見してんだもん。なんていうか、冒涜的?」
遠回しに創作料理をやめろと言っているのだが、人間の食べ物を延々と作っているのはなかなかに退屈なのでこれくらいの遊びは許してほしいものだ。
「はいはい。今日はシャンタクのお肉だから大丈夫よ〜」
「しゃんたく?何の肉?」
「鶏肉だけど?」
「ふーん。母さん時々聞いたこともない名前出すよね!ダゴンのお刺身とかサンドワームのハムとか、全然聞いたことないんだけど。一体どこから仕入れてんの?」
「そういうのくれる友達がいるのよ。いいじゃない美味しいんだし」
「料理は見た目も含めて料理だと思うんだけどなぁ……」
私が本当の親ではないことなど想像もしていない戸籍上の息子は、不満げに溜息をついた。
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