虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・結の章
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= 同刻 神界『高天原』=
油揚げ――それは至高の食べ物。
薄切りの豆腐を油で揚げる事によって誕生する奇跡の食品。様々な料理に加えられ、その独特の柔らかい触感は人々の舌を楽しませる。
狐を彷彿とさせる黄金色が所以かどうかは定かではないが、狐の好物として古来より知られ、稲荷明神へのお供え物としても古来から重宝される神秘の食品である。
とある経緯で多めの油揚げを手に入れた日本神話の神、タケミカヅチ。
彼はついでだからとそれほど縁のない稲荷明神へそれを届けに歩いていた。
というのも、この油揚げの持ち主は元々稲荷明神の遣いを呼び出そうとしていたのを自分が出しゃばったのだ。つまり、受け取るべきは稲荷明神。事件は自身が解決したとはいえ、ここで油揚げを独占するのでは余りにも狭量だと考えたタケミカヅチは稲荷明神へ手ずから届けに向かったのである。
その道すがらのこと。
少々小腹がすいたタケミカヅチは、その油揚げの一つを摘まんで食べようとしたのだが。
「あっ」
つるっ、と指を滑らせたタケミカヅチはなんとその油揚げを神界の外へと落としてしまった。
これには彼も苦い顔をする。神界という場所は外に出れば下界に辿り着くほど単純な構造をしていない。つまりあの油揚げは今後一切回収不能である。図らずとも食べ物を粗末にしてしまったタケミカヅチは、せめてその油揚げで救われる人があるようにと静かに祈った。
= 同刻 欲界第一世界 『はじまりの世界』 =
狐は、腹を空かせていた。
親元を離れ手の寂しい一匹暮らし。もう餌を取ってくれた親とも離れ、独力で生き残らなければならないこの自然界で甘えは許されない。餌にありつきたくば他の獣を襲ってその肉を喰らい、それも出来ぬならばなりふり構わず人里の残飯や家畜を漁らなければいけない。それさえも叶わなかった狐に待つのは――死あるのみだ。
ふらつく身体と徐々に失せていく体温。もう数日間水しか口にしていない。
このままでは――そう思った狐の鋭敏な鼻を、食欲をそそる匂いが捉えた。
食べ物――直感的にそう思った。動物の鼻は食糧たりうる物の香りを本能的によい匂いだと捉える。狐に刻まれてきた嗅覚のDNAが、このかぐわしい香りは食糧のそれであると告げていた。
口元から急激に唾液が分泌される。体が食糧にありつけると歓喜しているのだ。
一刻も早くありつかねば。そして食べなければ。もし先に他の野生動物に先を越されたとあっては悔やんでも悔やみきれない。狐は残る力を振り絞って駆けだした。
そして、狐はそれを見つけたのだ。
――神の油揚げを。
「こぉぉぉーーーん!!」
歓喜のあまりに雄叫びを上げた狐はそれに飛びつき、食らいついた。油分と植物由来のたんぱく質、そして塩分
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