第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十二話 緋色の宵 中編
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そのまま餌食になる場合もあるが、そのまま虎が立ち去りその姿が見えなくなって脅威が去ったと判断した瞬間に全速力で小鹿は逃げ出す事が出来るらしい。
緊張が解け漸くそこで脳から『逃げろ』と情報が行き渡るからと考えれば、恐怖に当てられている間は思考が停止しているのと変わらないと言う事だろう。
脅威が去ったと思える瞬間に止まっていた思考がまるで堰き止められていた水の様に一気に流れ荒れ狂う。
この場にただ一人、百鬼丸という脅威により思考停止に陥り、虚空を“状況的に見て”救い手だと思う人物が居た。
虚空も百鬼丸も茫然としている輝夜も意識の外に置いてしまっていた人物が――――突然虚空の足に縋り付きまるで堰を切ったかのように、
「ねぇ!お願いッ!お父様とお母様がまだ屋敷の中に居るのッ!助けてッ!助けてッ!!早くッ!燃えちゃうッ!燃えちゃうのッ!お願いッ!早く助けてよッ!!早くッ!早くッ!早くッ!お願いッ!!お願いよぉぉぉぉぉッ!!!」
顔を涙でグシャグシャにして妹紅はしがみ付いた虚空に大声で懇願しながら激しく揺さぶった。
「ッ!ちょッ!」
妹紅のその行動は虚空にとって予定外の事態であり――――そして最悪と言ってもいい程の悪手であった。
状況を想定し行動する際に想定外な出来事が一つ起これば全ての行動が一歩ずつズレてくる。緊迫している状況ほどその一歩のズレは致命的な傷となり――――。
妹紅に意識を割いてしまった瞬間、そのほんの僅かな時間――――虚空の周囲への警戒に穴が開き、その隙間に滑り込んでくる影が一つ。
突如座り込んでいた輝夜の足元から黒い何かが湧き上がり、輝夜に纏わり付くとそのまま上空へと飛び上がる。
「ケ、ケヒ!ケヒヒヒヒヒッ!!モーラッタ!モーラッタ!間抜ケ!間抜ケ!ケヒ!ケヒヒヒッ!」
それは何時かデュラハンの一件の時に現れた真っ黒い鬼の少女――――無有。
彼女の行動は虚空にとって二つ目の想定外だった。
想定外、と言うよりは単に虚空の落ち度と言った方がよいだろう。敵の行動が自身への攻撃と想定し過ぎていた為、輝夜達への反応が遅れてしまったのだ。
一つのズレは後になればなるほど行動が後手後手に回ってしまうモノ。
虚空の思考に『あの鬼は何故この状況で輝夜を攫ったのか?』と疑問が浮かぶのは当たり前なのだが、その行動は一番気を逸らしてはいけない相手から意識を外してしまうという最悪の行動でもあった。
「おいおい!俺を忘れるなんて悲しいじゃねーかよッ!!」
上空に連れ去られた輝夜に視線を向けてしまっていた虚空に突如そんな言葉が降りかかる――――相当な近距離で。
瞬時に声の出所に視線を向けた虚空の視界に映ったのは――――右腕を振りかぶり、今まさに攻撃を繰り出そ
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