第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十二話 緋色の宵 中編
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は彼との戦いは記憶に強く残っていた。
「俺はそいつの配下で四天王の一角だったんだよ!その時にテメーに苦渋を嘗めさせられてんだッ!」
百鬼丸は虚空を指さしながらそう声を荒げるが、当の虚空は表情を変える事も無く、
「ごめんね思い出せないや」
悪びれる事も無くそんな言葉を吐いた。その言葉に百鬼丸の顔には更に怒りが刻まれていく。
「とりあえず――――その五十年前の縁で今も熊襲に加担している訳?君の目的って頭領の仇討なのかな?」
百鬼丸の心情など無視し、虚空はそんな風に疑問をぶつけるのだが、
「アァン?馬鹿かテメーは?あの野郎は弱いから死んだんだよ!そんな奴の仇なんて討って何の得があるってんだ?」
虚空の言葉を聞いた瞬間、百鬼丸の表情から怒りが消え呆れ顔へと変わっていた。
「それから勘違いしてんじゃねーぞ、俺は熊襲の連中に手をかしてるんじゃない。俺の目的の為に利用してるだけだ!大和をぶっ潰した次はあの連中よッ!」
「なるほどなるほど……まぁ君の目的が何かは興味も無いけど――――ここで君を討てば今起きてる厄介事の半分が片付くんだよね。ついでに君の野望もご破算だ」
刀の切っ先を突き出しながら虚空はヘラヘラと笑い百鬼丸にそう言い放つ。その言葉を聞いた百鬼丸は不敵な笑みを浮かべ、
「……確かにそうだな、あぁ〜困ったな〜俺様はこんな所で死ねないな〜!」
肩を竦めながらそう言い放った。
対峙する二人はまるで雌雄を決するかの様な雰囲気を創り出し、互いの一挙手一投足に注視し相手の首筋に牙を突き立てる隙を探り合っている――――かの様に見えるが実際は違っていた。
虚空と百鬼丸は互いに口にした言葉と心情は裏腹だった。
百鬼丸は「死ねない」と言ってはいるがそんな不安など欠片も抱いておらず、目の前の相手が如何なる手を出して来ても迎え撃つ自信を持っている。
逆に虚空は既に逃げの算段を始めていた。その理由は虚空の目的はあくまで『輝夜の身柄の確保』であるからだ。
不意に遭遇した相手が撃つべき敵であったとしても、敵陣の真ん中と言ってもよい場所に加え相手の力量が不明瞭である以上、保護対象を危険に晒す愚は犯せない。
百鬼丸の討伐より輝夜を連れて戦線離脱を選ぶ虚空の行動に落ち度は無く、至極当然とも言えた。――――唯一つだけの見落としを除いて……
どのような生物も危険を感じれば『逃避行動』をとるのは当たり前である。草食獣が肉食獣から逃げるのと同じ事だ。
だが実際は突然目の前に脅威が訪れた場合、殆どの生物は『逃避行動』を取れなくなる。
例えば小鹿が森の中でいきなり虎に出会うとその場で棒立ちになる。突然の事で思考が麻痺し情報の混乱により筋肉が緊張による硬直を起こすからだそうだ。
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