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【短編集】現実だってファンタジー
虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・波の章
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この男の罪は未来永劫許されることはないだろうが、冒険者は男を少しだけ憐れんだ。
不思議な事に、爆発の破壊力は冒険者とその仲間たちには一切影響を及ぼさず、彼らは諸手を挙げて「奇跡が起きた」「奴は自滅した」と自分たちの生存を喜んだ。

「いったい何が起きたんだろうな……こんなにぶっ壊れちゃ真相を探ることも出来ないぞ」

唯一人、この動乱の中心人物となり姫を守る為に何故か騎士にまで出世してしまった冒険者だけは納得しきれていなかった。科学者は狂気に満ちた男だったが、それ以上に優秀な術師にして科学者だった。彼の所為で起きた故障や事故だとは、冒険者には思えなかった。

だが、彼のそんな悩みも直ぐに消え去る。

彼の後ろから、聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。
高慢ちきで我儘なくせに甘えることだけは一人前で、散々苦しみながらも前へ進み続けたその少女は、冒険者が助けた姫だった。彼女の瞳には大粒の涙が浮かんでおり、何度も何度も冒険者の名前を叫びながらこちらに走り寄ってくる。

一緒に怒り、一緒に泣き、時には折れそうになりながらも支えあった少女。
冒険者がこの世で唯一ひとりだけ愛を誓ったその姫の目が冒険者を捉え、姫は一直線にその胸に飛び込んできた。
タックルのようにぶつかった彼女は夢中で冒険者を抱きしめ、「二度と離さないから、二度と離れないで」と、今世紀一番の我儘を口にした。その言葉がどういうことかを察した冒険者は――

「――まぁ、いっか」

冒険者は、そのどこまでも甘えん坊なお姫様の華奢な体を抱擁で迎え入れた。

数か月後、アーリアル連合王国は直接民主制国家「アドヴェンティア」として生まれ変わる。
アドヴェンティアの治世に置かれたその国の首都にいるべきだった二人の男女――冒険者と姫は、そこにはいない。
何故ならば冒険者は冒険者であり続け、一カ所に腰を据えるには早すぎるから。
そしてその冒険者の隣には、姫を辞めた新たな冒険者が幸せそうに並んでいたという。


エーテライト結晶の崩壊に伴う大爆発は、世界に小さな穴を空けた。
三千も連なる様々な世界の一つで発生したその波動は、時空を揺るがし、別の世界へと波紋を広げた。
 
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