裏切りの明け空
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夜行軍は迅速に、警戒を全面に押し出して行われていた。
先頭を切っているのは霞。軍師達と動きを決めていようとも、神速の用兵とまで謳われる彼女に華琳は先陣の判断を任せていた。
今回の官渡の戦では、曹操軍の重鎮達はそれぞれに相方とも言える軍師を付けている。霞の場合は詠、春蘭の場合は風、凪と沙和には稟を。官渡には秋蘭に朔夜を付けて。
余談であるが、詠は水鏡塾の制服をまた着させられている。皆から可愛いと褒められて耳まで真っ赤にして照れていたのはお察し。
そして華琳の隣には……彼女自身が認めている王佐、桂花を侍らせていた。
昏い顔、赤く腫らした目……今にもまた泣きだしそうではあるが、兵士達の前という事もあってか、彼女は涙を堪えていた。
――田豊を救い出せる確率はかなり低い。袁家の内部事情を鑑みると希望を持つ方が難しい……。
秋斗を送り出した華琳であっても、夕を救える事はほぼないだろうと判断していた。
冷静な計算の上で積み上げてきた勝利への道筋。才あるモノに目が無い華琳としても夕はぜひ欲しい人材……しかしこの戦の勝利と比べるとなると……切り捨てざるを得なかった。
“たられば”のもしもは幾つも考えられる。自分がこうしていれば、敵をもっと迅速に打ち倒せていれば、何がしかの揺さぶりを与えておけば……けれども現実は今を置いて他には無く、道筋を立てたのは自身の軍師達で、黒に賭けるしか手が無い。
華琳は何も言わない。謝る事も、元気づける事も、優しく思い遣る事もしなかった。
「華琳様……」
綴られる声は弱々しい。叫び出したいような、泣き崩れたいような、そんな声音。
目を向けることなく、華琳はただ沈黙を以って先を促す。
「……ありがとうございます」
出てきたのは感謝の言葉。すっと、華琳は目を瞑った。何に対してか、彼女は理解していた。
「徐公明は……我が軍のこの先には必須な人材だとおっしゃられていたのに……私のわがままにお貸し頂き、ありがとうございます」
震える声は悔しさを宿して。自分で救い出せない、他者に任せるしかない事が、桂花はただ悔しかった。
「例え紅揚羽が死のうともあの男だけは生きて帰って来る。だからその感謝は受け取ってあげない」
戦場を見極めてこれ以上は自身の生存が不可能と判断したなら、二人を見殺しにしてでも秋斗は先の世の為に帰ってくる、では無い。
相応の無茶をして結末を見届けた上で彼は生き残るだろう。そんな気がした。
故に、桂花の感謝を跳ね除ける。
胸に走る痛みから、桂花は苦々しい息を噛みしめた歯の隙間から零した。
「戦の勝利を見据えた上で田豊を救い出す最善手は確かにあの男と張コウに賭ける事だった。……せめて黒麒麟だったら、違ったでしょうね」
状
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