裏切りの明け空
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潜り込んでたんだって」
「へぇ……ならウチらが戦うに相応しい相手っちゅうこっちゃ」
個人の感情は戦場に持ち込むべきではない。二人とも分かっているし、憎しみなどもはや切って捨てている。戦争とはそういうモノだ、と。
だがしかし、兵達はどうか。心を高く持ち、感情を割り切れる程の潔さを持っているであろうか。
当然、洛陽に家族を移していたモノも少なくない。友も居て、日常があって、短い間であれど楽しく暮らしていたモノもいるのだ。
なら、詠が告げる真実の一言は、兵士達に燃え上がる感情を植え付けられる。
皆が知っている。あの時、街からの煙を見て霞がどれほど怒り狂ったか。助けに駆け付けたい心を抑え付けてでも戦場を優先したか。
震える拳は固く握られ、噛みしめた唇は怨嗟を表す。
それでも抑えんと耐える彼らは神速の兵士達。将の為に戦い、将の為に死ぬ……黒麒麟の身体と同等のバカ野郎共。彼女と共に神速にて果てることこそ彼らの望みで、生き様。
「はっ……間違うなやバカ共。その感情は否定せんけどな……ウチの部隊で居りたいんやったら、戦いを楽しみ」
振り向き、目を細めながらの言葉は鋭く速く、彼らの心に突き刺さる。
憎しみは持っていい。しかし神速の兵士であるならば、生きて戦う歓びをも刃に乗せよ。殺したいのではなく……全身全霊、命を輝かせて戦う事にこそ、価値があるのだ、と。
彼女に直接言われるだけで違う。ぽつ、ぽつと深い息がそこらで上がる。兵士達の一人ひとりが、彼女の部下として相応しい姿になっていく。
ぼやけ始めた闇の中で変わる場の空気に、ぐるりと兵士達を見回した霞は満足したのか、うんうんと大きく頷いた。
「せや、それでええ。この戦のどでかい舞台の最前線、誰にも譲れん大きな仕事や。誇れ」
声には出さずに皆が頷き、にやりと、誰もが口を歪める。そうして、戦の為の心構えを整えた。
霞はひょうたんを傾けて、グビリと喉を潤す。
薄めの酒ではあるが戦の前には丁度いい。普段なら飲まない。しかし今回ばかりは……自分の好きなように楽しむ為にと許しを得ていた。
幾分、幾刻……空に白みが掛かる頃。一人の騎兵が駆けてくる。
「敵陣、発見致しました。場所は東に一里。森を抜けた先に」
「森の先……か」
「ほぉか。ご苦労さん。これ飲んでええで。ウチが飲んだ後のでもかまへんやったらな」
思考に潜り出す詠とは別に、霞はひょい、とひょうたんをその兵士に投げ渡す。慌てて受け取った兵士は訝しげに見つめるも、喉が渇いていた為に礼を一つしてから口を付けて……噴き出した。
「っ……ちょ、コレ酒じゃないっすか!」
「にゃははっ! 驚いたー?」
後ろの兵士達からクスクスと笑いが上がる。
この緩さも、絆あればこそ許される。元
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