裏切りの明け空
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叶えてやろうぜと頭に声が響いて……最後の線引きが外された。
「……っ……皆殺しだぁぁぁぁぁてめえらぁぁぁぁぁっ!」
ケモノの如き咆哮が張り上がった。
紅揚羽が居るから、彼らは統率を以って戦える。長い事彼女を見てきた。彼女と共に戦ってきた。
彼女は親殺しのヒトデナシ。彼らは人殺しのロクデナシ。
賊徒と何が違う? 戦う理由を奪われたなら、彼らはそれらと変わらない。結局は生きる為に選んだろくでもない仕事。誇りなど欠片も持っていないのだ。
部隊は将の色に染まる。
紅揚羽が率いる彼らは、たった一人の命令に従い、たった一人の願いの為にしか戦わない。それが自分達の為で、戦う理由だった。
怒涛の波となって押し寄せる張コウ隊に、もはや待ちきれずに鳴り響く笛の音。
臆すること無く、彼らは陣の柵を乗り越え、打ちこわし、中へ外へと広がって行く。その様はまるで烏合の衆。賊が行う戦闘となんら変わらない。
されどもその力は袁家のどの部隊よりも洗練されてきた精兵で、人を殺すだけの乱戦に特別特化した異質なモノ達。経験が、身体が、脳髄が……自分達が戦う術を教えていた。
死兵に策は意味を為さない。例え炎に囲まれようと、敵に押し込まれようと、一人でも多く殺す為だけに、動き続ける。
助けなどいらなかった。彼らはただ、抑えられぬ怒りと悔恨のままに人を殺したい。誰の制止も聞くつもりもなかった。
彼女の代わりに、自分達がこいつらを喰らってやろう。
自分達は囮だと知っている。だが、それがどうした。
そう言うように……彼らは人を殺し続けた。
自分達の数がどれほど減ろうと気にすることなく、彼らは自身達の掲げる将のように、紅に塗れた。
烏巣での戦の幕開けは裏切りから。抑えられぬ憎しみに染まり、紅揚羽の住処たる地獄の有様であった。
†
もうすぐ夜明けが来る時間。行軍を終えていたのは二つ名の通り神速。先陣の誉れをいつでも浴びてきた自負がある。
霞は隣で思考に潜る詠を見て、ふっと歓喜の笑みを零した。
「楽しい楽しい仕事がもうすぐやな」
緩い声。これから戦うとは思えない程の。
朧三日月の光だけが大地を照らすただ中で、声は波紋となって兵達に広がる。
誰有ろうその部隊は霞と共に戦ってきた精鋭。名の通りに戦場を駆ける神速の部隊。そして詠を知っている、懐かしき涼州の兵士達。
此度の戦いは自分達の働きに掛かっているとは分かっていても、緊張感は余り感じていなかった。
並ぶ表情は安心と信頼に彩られ、掲げる旗たる将と、自分達を操る軍師をただ信じていた。
「そうね。知ってる、霞? 情報通りなら、郭図が洛陽に火を広げさせたらしいわよ。曹操軍の調べではあの決戦以前に
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