裏切りの明け空
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クデナシ共”だけ。明がたった一人の少女を救うために鍛え上げた彼らだけ。
「なぁ……俺らは、あの人は、田豊様は……袁家の為に戦ったぞ?」
黎明に照らされた黄金の鎧が輝くも、彼らの心に光は無い。
「その為にたくさん、沢山死んだ。あの人の尻追っかけようとしてぶち蹴られた奴も、あの人に踏まれて喜んでたクズも、あの人達二人の仲の良さを見てデレデレしてた大バカ野郎も」
はらりと流れる涙の意味は、哀しいのか、苦しいのか、辛いのか……否、否断じて否。
「だからよぉ……俺らだって死んでやる。それが仕事で、俺らが選んだもんだ」
只々、彼女達と戦う事を決めたのに、それを邪魔するこいつらが……憎い。
ひっ、と誰かが一歩引いた。ぎらりと光る眼差しは、それほどの威圧を含んでいた。
「知ってるか? あの人な……泣いてやがったんだよ。血も涙も無い紅揚羽が……泣いてたんだ。誰のせいだ?」
「う、打て、矢を放て!」
待ってやる義理などないからと、矢が幾本も飛ぶ。
即座に構えられる木の盾。誰が教えた? 誰に鍛え上げられた? そうして、彼らは怨嗟を紡ぐ。
ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めた。決して慌てること無く、彼らは歩いて陣の閉じられた門まで向かい行く。
敵は笛の音をまだ鳴らせない。曹操軍が引っ掛からなければ意味が無いのだ。最低でも明が居なければ、与えられた仕事をするにも足りない。
説明された通りの動きだと、千人長は呆れとくだらなさから渇いた笑みを零した。
「ひょろっちぃ矢なんざ効くかよ。刺さっても突撃、腕が千切れても突撃、脚が千切れても、腹を貫かれても喰らいつく……それが俺らなんだぜ?」
黒麒麟の身体のような洗練された連携は出来ない。張コウ隊が彼らと同じである点は、命続くかぎり殺しに向かうという精神力と、明の指示に絶対服従の対応力だけ。
「おい、答えろよ」
じとり、と見据える眼差しはただ昏く。千人長の瞳に、大男は呑み込まれた。
敵兵達は矢を射るも、まとまりを持たずに無駄打ちに終わる。彼らと敵では、乗り越えてきた地獄が違い過ぎた。
「……なぁ、袁紹軍っ! 誰が俺達の戦う理由を泣かせやがった!?」
もはや抑えられず、声が荒げられた。
続いて、幾多も張り上がる声は怨嗟と憎悪に染まり切り、気圧されて誰も答えることなど出来なかった。
そうして次第に変わる声は、たった一つに絞られる。
「……殺してやる」
さざ波の如く、その言葉が広がって行った。
張コウ隊達はもう、部隊では無い。こんな感情を持ってしまっては、部隊に戻れない。
腕に巻かれた黒の布。彼女を救う為にと、彼は自分達と同じく戦っている。なら、自分達が行う事は、一つだけ。
「……殺してやる……っ」
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