裏切りの明け空
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の傷を気にすることなく、ただ無言で一つの陣に迫るモノ。
掲げられた張の旗から、彼らが袁家でも最強の部隊だと誰もが気付く。
百人長も、千人長も、誰も指示を出す事は無かった。
「止まれっ!」
陣の前で見張りをしていた兵士が大きな声を上げれば、彼らはピタリと脚を止めた。
轟、と燃える松明で旗の名を見せつける。しかれども、彼らはまだ無言であった。
「張コウ将軍は如何した?」
「……」
当然、一番前で率いる将が居なければ、誰もが訝しむ。もしや敵の兵が化けているのではないか、と。
答える声は、やはり上がらなかった。
「何故答えん? そなた等が張コウ隊であるというならば、将軍は此処にいらしておるはずであろう?」
「……くくっ」
一番前の一人が哂った。笑みの意味は自嘲か、それとも嘲笑か……どちらもである事に敵は気付かない。
「貴様……何故笑う?」
「……ふはっ、なぁあんたら……俺らが何か知ってるか?」
苛立ち湧き立ち、ビシリ、と空気が凍りついた。
問答にもなりはしない。会話が成立しない。そんなモノと話している時間は無駄であろう。これが敵なら、殺されるのだから。
見張りの兵士の纏めをしていた大男が、すっと手を上げた。同時に、キリキリと弓弦を引き絞る音が鳴り響く。
「もう一度だけ問いかけてやる。張コウ将軍は何処だ? 答えよ、張コウ隊っ!」
くつくつ、くつくつと喉を鳴らす音が不気味さを広げていく。
その部隊の兵士達は、哂っていた。相手に対しても、自分達に対しても。
「……そうだ、そうだよ……俺らは張コウ隊だ。袁家で一番強くてなぁ……一番あの人の為に働けるバカのはずなんだ」
ぽつり。零された言葉は哂いを掻き消した。
見張りのモノ達は凍りつく。兵士達のその眼に、昏い絶望を垣間見て。
一人の兵士にコクリと目で合図をした見張りの大男。後に、一本の矢が放たれ……張コウ隊の一人の脚に突き刺さった。
誰でもいいのだ。脅しなのだから。答えなければ殺すと、そう伝える。しかし張コウ隊は誰も微動だにしなかった。矢が突き刺さったモノでさえ、剣を杖と為して立ち上がる。
ゾワリ……と粟立つ肌は抑えられない。人が射られた。無防備な状態の人が射られたのだ……なのに何故奴等は動じない? そう考えるのは必然で、恐怖に頬が引き攣るのも当然。
「……はっ……お前ら、あの人の言った通りかよ?」
嘲りと侮蔑の声が燃え上がる。静かに、蒼の炎の如く。
ギシリ、ギシリ……響くは掌が剣と槍の柄を握りしめる音と、歯を噛みしめる音。
轟々と燃え始める瞳の炎の名は……憎悪と怨嗟。
仲間ではないか、とは誰も言わない。張コウ隊にとっての仲間とは、此処に並ぶ“ヒトゴロシでメシを喰らうロ
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