裏切りの明け空
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ずともいくらでもやりようなどある。自分よりも上な気でいる女達を蹴落とす愉悦を、と。
しかしながら、郭図は理解が足りない。
烏合の衆と為した軍、頭を失った兵士達は数だけでは纏めきれない。凡人が寄って立つモノを失ったのだから、それに使う力など……覇王は最小限に抑えるだけでいい。
一つ、林を越えて行く中で笛の音が聴こえた。彼にとっては忌々しい、最悪の音が。
「な、なにっ!?」
一つ、一つと遠くなっていく笛の音。それが伝えるのは……自分達を見つけたという合図であろう。
例えば猪々子一人でもいれば違っただろうに。兵士達を纏め上げて、曹操軍を引きつけるための囮に為せた。彼が嫌う、この世界に愛された女達を引きつけられたであろうに。
馬の蹄の音が遠くから聞こえた。百か、二百か、より多くか。
郭図に武力は無い。兵士達にも高い武力は無い。引き連れている千の兵士達だけでは、武将と呼ばれる者達を相手取るには不足。
見える旗には夏候の字。曹操軍で一番強く、一番精強な……袁家にとっては絶望の旗。
――嘘、だろ? なんで夏候惇をこんなとこに……。
伏兵を伏せるまでは良い。正常に起動すれば有効な策で、敵の足止めも容易に出来るだろう。
ただし場所がばれているならば、それはただの一部隊に過ぎず、攻められると思っていなければ……逆に狩られるだけの獲物
裏切りとは、軍を完全に殺せる猛毒。明の裏切りを予見出来なかった郭図の、完全なる敗北であった。
だらり、と手綱を握る手が落ちる。兵士達は恐怖を抑えて指示を待つが、彼からは何も命令が発されなかった。
「は……くっだらねぇ」
雄叫びを上げて突撃してくる餓虎の部隊を見据えたまま、郭図はこの状況を正確に判断した上で……全てを諦め、空を見上げた。
「せめててめぇの絶望だけでも楽しませろ、張コウよぉ」
憎い女の名、夕暮れの空はまだ遠く。せめて最期は明けの少女が昏く染まるのを見てやろうと決めた。
彼は何時でも、心の底から誰かの不幸を願っていた。
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