裏切りの明け空
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ん……にひひっ、考えとこ。
口元が緩む。考えてみると楽しくて仕方ない。
競い合いのような、意地の張り合いのような、自分の部下達を見せ付ける為だけのモノだ。楽しければいいかと考えて、不意に彼の事が思い浮かんだ。
――なぁ、秋斗……あんたぁは変なやつや。戦なんざ一片も楽しめへんやろ。あんたぁはそれでええねん。その変なまんまで壊れんと……戦バカなウチと一緒に戦ってや。
気ままに、自分勝手に、好きなように……彼と自分はそれでいいと、彼女は思う。
すぅ……と大きく息を吸って、彼女は先を指し示す。愛しい戦場たる、その場所に向けて。
遥か遠く、友と認めたモノがあるがままに戦っていると信じながら。
「全軍……行動開始ぃぃぃっ!」
明けの空。黎明の光は薄白く。
神速が槍持ち、友を想いて駆け抜ける。
詠は一人、兵士の馬に乗り共に突撃しながら……冷たい眼光を映えさせていた。
――袁家の兵士は、逆らうなら一兵卒に至るまで皆殺し。従うのなら……即座に嘗ての同胞を殺させる。秋斗のやり方がボクと霞に出来るか……ううん、やってみせる。
兵士に下された命はそれだけ。
神速として駆け、刃を持つモノを殺すのみ。
黒麒麟を知っているのはなにも雛里だけではなく、もう一人。
†
盛大に陣を四つも用意したのだ。それに目を引きつけられ、第五の陣地はそれほど容易に見つかるはずがない……そう、郭図はたかを括っていた。
よもや張コウが本当の意味で裏切ろうはずは無い。疑念猜疑心の強い彼でさえ、袁家の勝利の、田豊の生存の為に最善を尽くすだろうと思い込んでいたのだ。
愉悦は油断を生み、傲慢は慢心を呼ぶ。勝てると思った矢先に絶望に突き落とされる……それは自分にも言える事だと、彼は思い至らない。
「クソ……クソ、クソ、クソ、クソっ……クソがぁぁぁぁぁっ! あのクソ女……っ……裏切りやがったぁぁぁぁぁ!」
彼は読み誤っていた。否、彼は恐れて、思考を縛られていたのだ。
自身に辛酸を舐めさせた一人の男。黒麒麟の動きを予測するあまり、明の裏切りまで頭が回らなかった。
情報では、明と夕に若干の接点を持っていた。覇王は明の事を完全には信用せずに烏巣まで連れてくるだろう。ならば、黒麒麟は夕を救うために本陣に残るはず……そんな予測に縛られた。
そして何よりも、郭図は“兵士の心”というモノを計算に入れていなかった。
覇王が明を自由にして、張コウ隊だけを連れて来るなど誰が予測できようか。全ては彼の根幹にある性根が招いた過ち。人の心というモノを軽く見過ぎた。
それほど物資は多くないし、時間も足りない為に工作を行う事は出来なかった。他の場所に陣を築く事も、出来なかった。物資の大半は第
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