裏切りの明け空
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況が悪かった。
彼が記憶を失っていなかったのならば、この戦自体の戦況すら、がらりと変わっていたに違いない。
華琳が到着する前に袁家本陣への突貫、延津への先回り伏兵、広い範囲への警戒網、夕の救出に対して幾多も手を打てたであろう。夕事態を本拠地に帰さないような事態にも出来たはずである。
所詮は有り得ない可能性の話。起こった事しか起こらない。
華琳としても、秋斗の記憶を無くすほど追いつめた事に後悔は無い。結果としてこうなったというだけで、悔いを感じるモノではないのだ。
ただ……愛しい臣下を傷つけたという傷が、僅かに痛む。
雛里の絶望も、桂花の絶望も……自身がありとあらゆる才を持つが故に、届かなかったという事実が口惜しかった。
自分が手に入れられるモノを全て手に入れる。そうして進んで行こうと決めた華琳でさえ手に入れられないモノがある……それが自分に対する怒りとなり、より大きくと願い、成長に繋がるのだが。
じ……と、桂花が華琳を見つめていた。
視線に籠るのは責めでは無く、ただ不甲斐無さ。桂花は華琳とは違い、自身の無力を嘆いていた。
優しい言葉が欲しいのか。労わって、慰めてやるのも王の務めであろう。しかし華琳はしてやらない、してはならない。
「桂花、この戦で最終的に私が手に入れたいモノは何かしら?」
問いかけるは別の事。自分達が遣るべき事で……軍師達ですら知り得ぬ事。
華琳はこの質問を、ただ一人、秋斗にだけ問いかけた。他の誰にも問いかけてはいない。
目を閉じ、思考に潜る桂花は自身の悲哀を頭の隅に追いやった。思考を広げることこそ絶望を感じない唯一の方法であるが故に、華琳の無言の思いやりをしっかりと受け止める。
――ありがとうございます、華琳様。
軍師の誰もが幾度となく、この戦の事は考えてきた。華琳が欲しいモノ、手に入れたいモノを自身達だけで読み抜き、判断しようと。
それぞれ別個として思考を積ませて議論をさせてきたが、風と稟、詠から出たモノは同じ。
袁家の領地と、顔良、文醜、そして張勲。本拠地の掌握まで迅速に行わせる為に、七乃に対して旧袁術軍を動かせという指示を出す準備さえ出来ている。
外部勢力の動きによって、袁家当主は厳罰が必定……斬首より下には成り得ない。帝を手中に収めている勢力を攻めるとはそういう事だ。罪を減じることなど出来はしない。相応の罰を以ってこの戦は終焉を迎える……軍師達の予測のカタチは此処まで。
「……乱世を越えるにあたっての波紋を」
短く一言。桂花はそれだけを話した。
深くは示さない答えに、華琳は目を細めて、それだけでは足りないと先を促す。
冷たい冷たい光が桂花の目に宿った。冷徹な軍師の瞳は、何を切り捨てるか十分に理解を置いていた。
「袁
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