第一章
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「それはまたいいことで」
「それは御前もだろ」
アルトマンは彼にそう言い返した。
「ええ、ヘルバルト=ブラウバルト中佐」
そして彼の名を呼ぶ。
「一四〇機撃墜の大エースが」
「何、大したことはないさ」
だが彼はその言葉にこれといって反応を示さなかった。
「御前さんに比べればな。微々たるものさ」
「何処がだよ」
アルトマンは笑ってそう返す。
「それだけ撃墜しておいてよ」
「ノボトニー大佐程じゃないさ」
ドイツ軍の伝説的エースの一人である。生涯撃墜数二五八機という信じられない記録を残している。もっともドイツ軍は三五〇機撃墜という記録の持ち主もいるのであるが。
「俺の記録なんてよ」
「よく言う」
アルトマンはそんな彼に対して述べた。
「そこまで撃墜してりゃ本物だぜ」
「本物か」
「ああ。その証拠に今も生きてるじゃないか」
「まあな」
その言葉には頷いた。
「それが何よりの証拠さ」
「だといいがな。けれどな」
「何だ?」
「まだ飛べるのかね」
ブラウバルトはシニカルな笑みと共にそう言った。
「この状況で。どうなのかね」
「まだ大丈夫だろ」
アルトマンは彼にそう返した。
「俺達の方はまだな」
「俺達はか」
「ああ。レシプロの連中はもう殆ど駄目らしいがな」
「そうらしいな」
ブラウバルトはアルトマンの言葉にまたシニカルな笑みを浮かべてきて応えた。
「それでジェット機やロケット機がかえって活躍できる」
「それも数は滅多にないがな」
「やけに引っ掛かる物言いだな」
「本当のことだろ?」
それでもブラウバルトは悪びれた様子もない。
「誇り高き無敵にルフトバッフェももうその面影すらねえ。ここの基地だって何機あるよ」
「七機だ」
アルトマンは答えた。
「そしてパイロットも七人だ」
「かってはここに数え切れない程の戦闘機とパイロットがいたのにそれだぜ。それが何よりの証拠だろ」
「ああ」
残念だがそれを認めるしかなかった。
「これが現実なんだよ。今のドイツもな」
「もうすぐ終わりか」
「それしかないだろ」
何時の間にかブラウバルトの顔からあのシニカルな笑みが消えていた。憮然としたものになっていた。
「もうここまでイワン共が来てるしな」
「そうだな。ベルリンももうすぐ終わりか」
「今丁度ドンパチやってる頃だと思うぜ。援護に行くか?」
「パパのか」
グライム元帥のことである。ドイツ空軍の重鎮であり『パパ』と呼ばれて将兵に親しまれている人物である。能力だけでなく人望も備えていた人物である。
「もう自害されてると思うがな」
「じゃあ止めだな」
「どうしたらいいんだ?」
アルトマンは俯いてそう述べた。
「俺達は。このまま負けるのか」
「負ける
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