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第一章
勝負師
勝負時だった。それを見て取った。
彼はベンチで沈黙していた。その彼にコーチの一人が声をかけた。
「どうしますか?」
采配のことだ。それ以外にはなかった。
「勝負されますか、やはり」
「勝負か」
「あいつはそれを望んでいますけれど」
コーチはマウンドを見て言う。見ればエースがこちらを見ていた。
「勝負して打ち取りたいと言っていますけれど」
「そうだろうな」
言葉を聞かれた彼はそれに対して頷いた。このチームのエースは非常に負けん気が強い。決して逃げない男だ。それでファンの中でも人気のある男なのだ。男であると言われている。
「それはわかる」
「では勝負ですね」
それを聞いてコーチはまずはそう判断した。
「ここはやはり」
「いや」
だが彼はここでは即答を避けた。険しい目で球場全体を見ていた。そうして今は答えるのを避けたのであった。
「待て」
「待て、ですか」
「少し考える」
そのうえでこう述べた。
「どうするかな。しかしだ」
「しかし?」
「勝つぞ」
それはもう心に決めていることであった。最初から。
「それはいいな」
「はい」
そしてコーチも彼のその言葉に頷くのだった。
「それはもうわかっていますよ」
「この試合に勝てばそれで決まる」
彼はそれがわかっていたのだ。
「天王山って言葉があるな」
「それが今っていうことですね」
「勝負は。それに勝てるかどうかだ」
こはコーチに対してだけ言っているのではなかった。自分自身に対しても言っている言葉であった。
「それに負ける奴は勝負師じゃない」
「違いますか」
「百回負けてもいいんだ」
彼は次にこう言った。
「肝心の勝負に一回勝てればな。それでいいんですか」
「歴史でもそんな話がありましたね」
「そうだったな。中国の話だったか」
「誰だかは忘れましたけれどね」
コーチはそこまでは覚えてはいなかった。しかし今が一体どういった時なのかは監督である彼の言葉でよくわかった。今はそれだけで充分であった。
「それでしたら」
「勝つ為には何でもする」
それだけ彼は今この試合に全てを賭けていたのである。
「それだけだ。しかし」
「しかし?」
「次のバッターは最近絶好調だったな」
「はい」
コーチは話が変わったのに合わせて彼の言葉に応えて頷いた。
「そうですね。今シーズンは好調ですが最近は特にです」
「しかも勝負強い」
彼の頭の中で次々と今打席に入るバッターのデータが出て来る。それを照合させていって考えを巡らせていく。
「長打もある。パワーヒッターだ」
「特にこの球場では」
「抜群にホームランが多い。まあそれは向こうのホームグラウン
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