R.O.M -数字喰い虫- 2/4
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存在せず、ただ漠然とそうあれと感じた。
「気配を感じたか?」
「多分ね。あの子、恐らくは『持っている』わ」
「……迂闊に近づいて手がかりを消したくない。様子見だ、いいな」
林太の顔色が、陰の差すものに変わった。微かな憎しみを含むそれに。
今、彼と私が唯一持っている、目標。それの手がかりを私が無意識的に感じ取ったことを、林太もまた感じ取っていた。私はわかっている、と呟いて、まるで汚いものを摘まむように財布から1000円札を取り出す少女を見た。
「――わたしメリーさん。今、貴方を見ているの」
だけど、それは助ける訳ではない。
なぜなら、貴方がこれから迎える因果律の果てを、私は知らないのだから。
= =
――その日の夜、また昨日と同じ夢を見た。
数字を食いつぶす芋虫の世界に沈む、最悪の悪夢を。
朝起きて、私はとうとう不快感に耐えられなくなってベッドの上で嘔吐した。
「わたしに、何が、起きてるの――」
呆然と呟く美咲の部屋の机には、開いた筈のない算用数字の塊のページが、彼女を監視するように開いていた。
次の日も不快な気分は消えず、同じ夢を見た。不快感は、むしろ増幅されている気がした。
次の日も、次の日も、次の日も。
いつか終わるなどという希望的観測は崩れ落ち、永劫の苦しみとも思える日々が待っていた。
――地獄とは、死後に救われる世界を信じた人間が、邪な人間まで救われる事実を否定するために作った世界だ。罪に罰を。悪に鉄槌を。あらゆる不義に報いを与えるために、人は地獄を想像した。
だが、地獄が必ずしも罰を目的に構成されるわけではない。
例えば自分ではどうしようもないほどに理不尽で過酷な世界だと自身の心が感じてしまった時、人はそこを地獄と呼ぶのではないだろうか。
「今月の有効求人倍率は『|葦cウナQ@?-ge*』で、先月より――」
這いまわる。
「あら見てこのチラシ!白菜が『"%?bp?{』円ですって!助かるわね〜!!」
視界を。
「昨日のテレビ見た!あの『ゴm=簸』人組の芸人!名前なんだっけ?えっと――」
芋虫が。
「ここで『{呉$』に『ヘガ?wb』を代入して省略すると『?giOンブ#b』になり、それに『w廼、mg{ホェヴ』をさらに――」
這いまわる。
視覚を、聴覚を、虫食いのように蝕まれていく。
吐き気が止まらない。世界の全てが異常で、恐怖に満ちている。
数を見せないで。数を聞かせないで。世界から数をなくして。
数字が芋虫になったというより、芋虫が数字を喰っているかのようだった。
嫌悪感と得体の知れない恐怖に常に晒され続ける生活が、長く続くはずもなかった
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