想起幕 黒の少女が願う世界
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剣戟の音が聴こえる。人がたくさん死んでいく。もはやこれは彼らが生き残る為の戦場で、私の為の戦場ではない。
一人でも多く助かってくれたらいい。そして……明と秋兄を生かしてくれたらいい。
じくじくと侵食する熱が脳髄と身体を焼き、涙が出そうだった。
次第に忍び寄る死の気配。絶望しかない私の未来は……もう誰にも救えない。
――せっかく、助けに来てくれたのに……
でも愛しい彼女と、恋しい彼を巻き込むなんて出来なくて、ただ一人でこうして死んでいくしかないんだ。
考えると、寂しくて切なくて、涙が溢れだした。
――会いたい……会いたいよ明、秋兄……。
せめて一目だけでも二人に会いたい。だから、このまま死ぬなんて絶対に嫌だ。
もう助からないなら、せめて一目だけでも。
戦場の音を聞きながら、意識を繋ぐ為に愛しい彼女の事を考えた。
私がいなくなったらあの子はどうなる? あの子は、私が居ないと生きていけない。まだ絆を繋ぎ切っていないから、心安らぐ場所が無い。秋兄が私の策を打ち破ったという事は……明は私を失いたくないから此処にきた。なら、何も伝えないでこのまま死んでしまったら……彼女は壊れる。
――それだけは、ダメ。あの子だけでも……生かさないと……。
どれだけそうしていたか分からない。何度も何度も思考を巡らせて、あの子を助ける為の方法を考えた。
見つからない。見つからない。どんな方法を思い浮かべても、彼女の助かる方法が分からない。
どんどんと思考が鈍って行くのに恐怖して、それでも、と考え続けた。
意識が薄れそうになり、身体から力が抜けて行く頃……黎明の光が一筋私を照らした。漸く明けた昏い夜。ただ、もう限界だというように、頭の中に白が広がって行く。
――私は結局……救えなかった。
抜け出て行く力に反して、頭の中にナニカが入り込んでくる。
――私は……“やっぱり”あの子を救えなかった。
白、白、白が侵食していく。
一つ、一つと増えて行くそのナニカは……甘い感情を心に浮かばせるモノで、
――あの時、私は呪いを掛けたのに……。
思い出せるのは幾多の笑顔。大切な大切な……彼女の笑顔。
自分は、何を呪ったのか。
“この世界を呪おう。このちっぽけな命を以って、救えないモノを救い続けよう。例えこの世界が壊れても、自分が狂って壊れてしまっても、別の場所、別の時、別の世界であったとしても、たった一人を救う為に、抗い続けて捻じ曲げる”
自分は、誰を救いたかったのか。
“あなたが生きてくれるならそれでいい。死の運命から逃れ得ぬあなたが生き残って幸せになれるなら”
――あの、時……?
違和感があった。
自分が記憶している彼女では
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