第五章
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第五章
「子供の頃はいつもそれで歌ってたから」
「今もかい」
「それでか」
「そうなんだ。それにしても」
ここでだ。彼はこう言うのだった。
「皆この歌好きだよな」
「いい曲だからな」
「格好いいからな」
「だからな。ついな」
「口ずさんでしまうんだよな」
周りも言う。微笑んでだ。
「いい曲だよ」
「聴いてたら奮い立つしな」
「日本軍はいなくなったけれど」
「それでもな」
「そうだよな。僕も」
アウンはだ。彼も微笑んで言った。
「この曲。好きなんだよ」
こう言うのであった。そしてだ。
パレードを見てだ。こう話すのだった。
「この曲ずっとな」
「ずっと?」
「ずっと聴いていたいのかい?」
「聴きたいね。そして歌いたいね」
これが彼の言葉だった。
「これからもね。それに」
「それに?」
「それにっていうと?」
「会いたい人もいるしね」
笑顔でだ。この話も出すのだった。
「ちょっとね」
「会いたい人?」
「誰だい、それは」
「ああ、まあそれは言わないけれど」
言うのが恥ずかしかったのだ。鈴木とのことは子供の頃の思い出だからだ。
「そういう人もいるんだ」
「ふうん、そうなのかい」
「日本人かい?それは」
「まあそれはね」
言わない。あえてだ。だがそれでも話すのだった。
「とにかく。これからもね」
「歌おうか、軍艦マーチを」
「それも」
そんな話をするのだった。そうしてだ。
彼はその歌を歌い続けていた。そんな中で長い年月を経ていた。
結婚して子供もできた。その彼のところにだ。
手紙が来た。それは。
鈴木からのものだった。彼は生きていた。今は日本で銀行員をしていると書いてある。それを読むとだ。
彼が健在のことがわかる。まずはそのことを喜んだ。だがそれだけではなかった。
軍艦マーチのこともだ。それも書かれていたのだ。
「今でも日本でもかかってるんだ」
そのことが書かれていた。そのかけられている場所のことも。
「海上自衛隊か。海軍なんだね」
彼はそう考えた。自衛隊は軍だと。
その軍でだ。今も軍艦マーチがかかっていると読んでだ。彼は笑顔になった。
「ずっと。残るんだな」
こう思ったのだ。海軍のあの曲がだ。今も日本で、そしてビルマでも残っていることを知ってだ。彼は自然と暖かい笑顔になるのだった。
そのうえでだ。彼はまた思った。
「僕も。これからも歌おうか」
その軍艦マーチをだ。
「鈴木さんと約束したし」
言いながらその小指も見た。あの小指だ。
約束を思い出してだ。さらにだった。彼はこんなことも言った。
「何時かまた会えたら。今度は二人で」
歌おうと決意するのだった。軍艦マーチをだ。
軍艦マーチ
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