第3部 始祖の祈祷書
第9章 宣戦布告
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みようと。
「タルブの村、炎上中!」
その急使の声で、呆然としていたアンリエッタは我に返った。
大きく深呼吸して立ち上がる。
一斉に視線が王女へと注がれた。
アンリエッタは、わななく声で言い放った。
「あなた方は、恥ずかしくないのですか?」
「姫殿下?」
「国土が敵に侵されているのですよ。同盟だなんだ、特使がなんだ、と騒ぐ前にすることがあるでしょう」
「しかし……、姫殿下……、誤解から発生した小競り合いですぞ」
「誤解?どこに誤解の余地があるというのですか?礼砲で艦が撃沈されたなど、言いがかりも甚だしいではありませんか」
「我らは、不可侵条約を結んでいるのです。事故です」
「不可侵条約?結んでいた…の間違いではないですか?アルビオンには明確な戦争の意思がある」
「しかし……」
誰も何も言わなくなった。
「なるほど、あなた方は怖いのですね?」
「姫殿下」
マザリーニがたしなめた。
しかし、アンリエッタは言葉を続けた。
「ならば私が率いましょう。あなた方は、ここで会議を続けなさい」
アンリエッタはそのまま会議室を飛び出していった。
マザリーニや、何人もの貴族が、それを押しとどめようとした。
「姫殿下!御輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
「ええい!走りにくい!」
アンリエッタは、ウェディングドレスの裾を、膝上まで引きちぎった。
引きちぎったそれを、マザリーニの顔に投げつける。
「あなたが結婚なさればよろしいわ!」
宮廷の中庭に出ると、アンリエッタは大声で叫んだ。
「私の馬車を!近衛!参りなさい!」
聖獣ユニコーンが繋がれた、王女の馬車が引かれてきた。
中庭に控えた近衛の魔法衛士隊が、アンリエッタの声に応じて集まってくる。
アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外すと、ひらりとその上に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります!各連隊を集めなさい!」
次々に中庭の貴族たちは駆け出していく。
城下に散らばった各連隊に連絡が飛んだ。
その様子をぼんやりと見つめていたマザリーニは、天を仰いだ。
姫の言う通りであった。
騒ぐ前に、すべきことがあった。
マザリーニは被った球帽を地面に叩きつけた。
アンリエッタが自らに投げつけたドレスの裾を拾い、頭に巻いた。
「各々方!馬へ!姫殿下一人を行かせたとあっては、我ら末代までの恥ですぞ!」
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