第3部 始祖の祈祷書
第9章 宣戦布告
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テイン艦隊を眺めつつ、ボーウッドの傍らでワルドが呟いた。
ワルドも、名ばかりの司令長官であるジョンストンにいかほどのことができるとも思っていない。
上陸作戦全般の実際の指揮は、ワルドが行うことになっていた。
「の、ようだな、子爵。しかし、すでに勝敗は決した」
行き足ついていたアルビオン艦隊は、全速で動き出したトリステイン艦隊の頭を抑え込むような機動で、既に動いていた。
アルビオン艦隊は一定の距離を保ちながら砲撃を続けている。
「艦長、新たな歴史のページが始まりましたな」
ワルドが言った。
「ただの戦争が始まっただけさ」
苦痛の叫びをあげる間もなく潰えた敵を悼むような声で、ボーウッドは呟いた。
トリステインの王宮に、国賓歓迎のため、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の報がもたらされたのは、それからすぐのことだった。
ほぼ同時に、アルビオン政府からの宣戦布告が急使によって届いた。
不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する非難がそこには書かれ、最後に『自衛ノ為神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国政府二宣戦ヲ布告ス』と締められていた。
ゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわであった王宮は、突然のことに騒然となった。
すぐに将軍や大臣たちが集められ、会議が開かれた。
しかし、会議は紛糾するばかり。
まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ、との意見や、ゲルマニアに急使を派遣し、軍の要請をするべきだ、との意見が飛び交った。
会議室の上座には、呆然とした表情のアンリエッタの姿も見えた。
本縫いが終わったばかりの、眩いウェディングドレスに身を包んでいる。
これから馬車に乗り込み、ゲルマニアへと向かう予定であった。
会議室に咲いた、大輪の花のようなその姿を、気にとめるものは誰もいない。
アルビオンへと特使派遣が決定した矢先に、急報が届いた。
「急報です!アルビオンの艦隊は、降下して占領行動に移りました。
「場所はどこだ?」
「ラ・ロシェールの郊外。タルブの草原です」
時刻は昼を過ぎた。
王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。
一向に会議はまとまらない。
枢機卿マザリーニも、結論を出しかねていた。
未だ彼は、外交での解決を望んでいるのだ。
怒号飛び交う中、アンリエッタは、薬指に嵌めた『風』のルビーを見つめた。
ウェールズの形見の品だ。
それを自分に託したウルキオラの顔を思い出した。
あの時、自分はこの指輪に誓ったのではないか?
愛するウェールズは、勇敢に死んでいったのだ。
なら、自分は勇敢に生きて
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