第3部 始祖の祈祷書
第9章 宣戦布告
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届くことはない。それがわかっていながらも、実戦経験もある提督を後じらせるほどの、禍々しい迫力を秘めた『レキシントン』号の射撃であった。
「よし、答砲だ」
「何発撃ちますか?最上級の貴族なら、十一発と決められております」
礼砲の数は、相手の格式と位で決まる。
艦長はそれをラ・ラメーに尋ねているのであった。
「七発でよい」
子供のような意地を張るラ・ラメーを、にやりと笑って見つめると、艦長は命令した。
「答砲準備!順に七発!準備出来次第打ち方始め!」
アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号の後甲板で、艦長のボーウッドは、左舷の向こうのトリステイン艦隊を見つめていた。
隣では、艦隊司令長官及び、トリステイン侵攻軍の全般指揮を執り行う、サー・ジョンストンの姿が見える。
貴族議会議員でもある彼は、クロムウェルの信仰厚いことで知られている。
しかし、実戦の指揮は執ったことがない。
サー・ジョンストンは政治家なのであった。
「艦長……」
心配そうな声で、ジョンストンは傍らのボーウッドに話しかけた。
「サー?」
「こんなに近づいて、大丈夫かね?長距離の新型の大砲を積んでいるのだろう?もっと離れたまえ。私は、閣下より大事な兵を預かっているのだ」
クロムウェルの腰ぎんちゃくめ、と口の中だけで呟いて、ボーウッドは冷たい声で言った。
「サー、新型の大砲といえど、射程いっぱいで撃ったのでは、当たるものではありません」
「しかしだな、何せ、私は閣下から預かった兵を、無事にトリステインに下す任務を担っている。兵が怖がってはいかん。士気が下がる」
怖がっているのは兵ではないだろう、とボーウッドは思いながら、ジョンストンの言葉を無視して命令を下す。
空では自分たちが法律だ。
「左砲戦準備」
「左砲戦準備。アイ・サー!」
砲甲板の水兵たちによって大砲に装薬が詰められ、砲弾が押し込まれる。
空の向こうのトリステイン艦隊から、轟音が轟いてきた。
トリステイン艦隊が、答砲を発射したのだ。
作戦開始だ。
その瞬間、ボーウッドは軍人に変化した。
政治上のいきさつも、人間らしい情も、卑怯なだまし討ちであるこの作戦への批判も、すべて吹き飛ぶ。
神聖アルビオン共和国艦隊旗艦『レキシントン』号艦長、サー・ヘンリ・ボーウッド矢継ぎ早に命令を下し始めた。
艦隊の最後尾の旧型艦『ホバード』号の乗組員が準備を終え、『フライ』の呪文で浮かんだボートで脱出するのがボーウッドの視界の端に映った。
答砲を発射し続ける『メルカトール』艦上のラ・ラメーは、驚くべき光景を目の当たりにした。
アルビオン艦隊最後尾の……
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