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クルスニク・オーケストラ
第十三楽章 聖なる祈り
13-4小節
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消えてから、俺はずっとやり場のない空しさを持て余しているのに。

 目当ての病室に着いた。ドアをノックする。一拍置いてドアが開く。
 応対に出たのはヴェルだった。

「ユリウスさん……」
「こっちにいたのか」
「早退届を出してきました」

 社長が死んだ日に有能な秘書長が欠勤じゃ、今頃社内は上を下への大騒ぎだろう。でも今は考えない。ヴェルだって、俺たちとは違う形で戦ってきたんだ。《審判》が終わったなら休ませてやってもいいじゃないか。

 ヴェルが道を譲ってくれたんで、病室に入る。目当ての人物は一番奥のベッド。

「まだ生きてるか?」
「ご覧の通り。そっちこそ幽霊じゃないだろうな」
「生憎手足もあるし心臓もちゃんと動いてる」

 お前、ベッドの上にいても死にそうにないな、リドウ。




 ――Aチームの二人から聞いた。リドウをどこに逃がして匿ったか。だからこうしてわざわざドヴォールくんだりまで顔を出しにきてやったんだ。今までお前がルドガーにしたこと水に流して来てやったんだから、感謝しろよ。

「対策室の連中から聞いた。ジゼルが最後に出した『命令』」

 お前を逃がせ、って言ったんだってな。自分が死ぬ間際だってのに何やってるんだあいつは。

 俺の時も、だ。俺の自決を止めにルドガーが来るまで、しっかり監視が付いてたってのをさっき知った。道理で電話のタイミングが良すぎたわけだ。

 しかもこの「命令」、分史対策室のエージェントが全員グルになって実行したっていうんだから、あいつの人望は侮れない。

「そんなことより。どうだったんだよ」
「何が」
「察し悪いな。ジゼルがどう死んだかだよ。お前、見てきたんだろ」

 ジゼルの死に様――いや、生き様を伝えるなら、言葉選びなんて必要ない。

「変わらなかった。最期まで。俺たちの知るジゼルのまま、任務を全うした」
「……そうだろうと、思いました」
「…………チッ」

 世界は救われた。長きに渡る《審判》は終わった。弟も生きて、大切な少女と共に生きていける。
 でもここでは、一つの世界が終わった。「いつもの4人」という、とても小さく、されど誰もが笑っていられた、一つの楽園が。
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