第六章
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第六章
「こうして。寒いから」
「寒いの」
「ええ、だから」
ここでは弱い様な顔を見せる。
「いいかしら」
「いいよ」
康史は今も優しかった。
「それじゃあね。それで工藤さんが温かくなるんだったら」
「有り難う。それじゃあ」
こうして二人並んで進みそのうえで、であった。喫茶店の前に来た。そこは和風の静かな趣の店であった。緑ののれんがその雰囲気をさらに出している。
「ここだよね」
「ええ、ここらしいわ」
偵察したことは隠して応える鈴だった。
「ここなのよ」
「そう。それじゃあね」
「ええ」
ここで鈴は店の前、道路を挟んで向かい合ったところはわざと見なかった。あくまで店を見た。そうして康史の目もそこから離したのである。
こうしてから店の中に入ると。やはり店の中は和風であった。木の台と椅子が置かれお品書きが見える。そこにはしっかりと黒い筆で漢字や平仮名で商品名が書かれている。
その店の中の一つの席に向かい合って座り。また鈴が言ってきた。
「ここのお店ってね」
「うん」
「お抹茶がいいんだって」
「お抹茶が?」
「それで食べ物はお団子がいいらしいわ」
こう彼に話すのである。
「それはどうかしら」
「いいね。それじゃあね」
「ええ」
「その二つにしよう」
ここでも鈴の言葉に素直に従う彼であった。
「それでね」
「ええ。それじゃあね」
「そうだよね。お抹茶とお団子の組み合わせってね」
「いいわよね」
「そうだよね」
康史は鈴の言葉に笑顔で返す。ラーメンとホットドッグで腹が満ちているせいもあって彼はさらに温厚になっている。しかも甘いものを前にしてさらにであった。
「その二つってね」
「そうそう。それでお団子は」
「何がいいかな」
「黍団子あるわよ」
それを出したのである。
「黍団子ね」
「あっ、桃太郎の」
「そうよ」
まさにそれだというのだ。やはり黍団子といえばそれであった。
「それがあるけれど」
「面白いね。じゃあそれにしようよ」
「黍団子二つね」
「それとお抹茶もね」
「ええ、それじゃあ」
「それでね」
こう話して注文する。そのまま今度はその黍団子と抹茶を楽しんだ。そうしてから暫く店の中でとりとめのない話をしてから外に出る。そこで。
「ねえ、次はね」
「本屋に戻る?」
「そうする?」
実は内心は違う鈴だった。ここでわざと顔を前にやる。すると康史も自然にその顔を前にやってしまったのだ。その前にあったのは。
「あ・・・・・・」
彼はそれを見て思わず声をあげてしまった。それは所謂ラブホテルだった。ピンク色の白を模した何処か悪趣味な外観をしていて看板で時間だの値段だのが書かれている。
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