道化師が繋ぐモノ
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じわり……と心に湧き出る感情があった。
汚泥の如き粘り気を伴って侵食するそれは、瞬く間に彼の心を一色に染め上げる。
敵意、殺意の類を向けられるのは初めてでは無い。凪との一騎打ちの時、僅かな時間ながらも殺意を受けられた事は幸運と言えよう。
根本的なモノとして、彼は何処か第三者視点で自分を見る性分であった。この世界に来てからというモノ、自分の知らない自分が嘗て居たと言われ続けたのだからその性分もより強固にして揺るがなくなっている。
故に、今の自分が……無意識の内に雄叫びを上げた事に驚愕を隠せない。
開かれた口から出た自分の声は、心をそのまま吐き出すかのように渇望の色に彩られ、見回せば目に入る敵全てを殺したくなった。
意図して無理矢理抑え込み、次に気付いたモノは……目の前に倒すべき敵が居て、自分が殺してもいい……それが嬉しくて仕方ないという歓喜が心に湧いていた事。
自身の心を染め上げていたのは、ヒトゴロシへの歓び。
矢唸りの音が耳を掠めれば、自然と口が引き裂かれていく。朧三日月に輝く白刃の輝きを見れば、緩く熱い呼気が口から漏れ出す。
自己乖離した自身に気付きつつも、彼は湧き出る渇望を抑える事が出来ない。人を救いたい渇望にしては……溢れ出す歓びは余りに大きすぎた。
叫びを上げて襲い掛かってくる敵二人に……自分の与り知らぬ条件反射が一つ。脚が縮地の動作を刻み、腕は正確に頸を狙って振り切られた。
ほんの瞬きの間のような出来事に驚くも、止まっている暇は無い。幾多も敵が寄ってきているのだ。殺さなければ……自分が殺されるだけ。自身の死に対する恐怖は……一度死んでいる身ゆえに欠片も浮かばなかった。
重い音が二つ、地に落ちる。一瞬だけ見やれば、向かい来た表情をそのままの頸が転がっていた。
じわり……とまた心に湧き出る感情があった。
震えそうになる脚、熱いナニカが零れそうな瞼……次第に顰められていく眉は、先程までとは相反する感情を表す。
気が狂いそうになる程湧き出てくる感情のうねり。ぐちゃぐちゃに心を乱していくその感情は……悲哀であった。
何故、自分がこんな二つの背反する感情を持つのか分からない。“普通”は禁忌の行いの罪深さに震えるモノではないのか、自らの手で人の命を奪った事に恐怖し、苦悶を刻んで後悔するモノではないのか……だというのに、彼はなんら、そういったモノに心を向けられなかった。
虐げられ、地獄のような場所に生れ落ちた人間ならば、自身にしか興味の無いモノならば、前者の感情を持つ事も正しいのだろう。
されども、彼は違う。倫理観が強固に積み上げられた世界で生まれ出でた人間で、他者と共存して生きてきたはずなのだ。故に……自身の異常性を受け入れられるわけが、無かった。
本当に自分が感じているモ
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