道化師が繋ぐモノ
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なかったのだ。
脳髄にねじ込まれる事実を理解出来るのは、一重に夕の事を信じている為に。
彼女があたしを助ける為にそうしたんだと
――――分かってしまった。
「ゆ、ぅ……っ……ゆうっ……夕っ!」
拒絶していた頭が溶けだして、涙など抑えられるはずもない。
あたしが救いたい少女は……たった一人。
だからこの目で見るまでは、見たとしても、絶対に認めない。認めてなんかやらない。
だって……彼女が居ない世界になど……価値なんか……無い。
†
だらん、と垂らした腕。秋斗は剣を引き摺って、ゆっくり、ゆっくりと其処に歩み寄る。
茫然自失は戦の後だからか……否、彼に至ってそれは有り得ない。ただ……無力感から脚に力が入らなかった。
大丈夫だから、と掛ける声音は優しく甘く、愛しい人にだけ向ける声。最愛のモノを慈しむ母のよう。
蹲る兵士を力付くで引き剥がした明は、小さな黒髪の少女を宝物だというように大切に扱う。優しく寝かせた後、笑みを浮かべながら明は泣いていた。
少女の肩には矢が一つ、二つ。他に目立った外傷は全く見られないのに……顔は死人のように蒼白で、苦しそうに弾んだ呼吸を繰り返していた。
夕は生きていた。張コウ隊の兵士は確かに守れた……敵が真っ直ぐに戦うモノであるならば。
「大丈夫。直ぐによくなるからね? ちょっとだけ、我慢して――」
「もう……無理、なの。明」
夕の唇から消え入りそうな声が紡がれた。小さく首を振りながら。自分はもう助からないと伝えるように。
その声も聞かずに、明は彼女の傷口を診ようと肩をはだけさせ……思わず眉を顰めた。
蒼黒く染まった傷の周辺。普通の矢傷なら有り得ないモノ。彼が曹操軍の負傷兵で見てきたどんな矢傷とも一致しない異質なモノ。毒矢で、間違いないのだ。
グイ、と涙を拭った明は、無理やり笑顔を作って話し掛ける。
「だぁいじょうぶ! あたしが直してあげる。夕が怪我した時の為に勉強したんだから」
「……泣いてるの?」
嗚呼、と心が悲哀と絶望に染まる。
彼女は明の動きも分からなかったのだ。もう……目さえまともに見えていないのだ。
「そ、そりゃあ心配した、もん。夕が死んじゃうん、じゃないかって」
次第に震え始める声は幾多の涙と共に紡がれ、それでも明は笑顔を崩さない。
ポタリポタリと涙が落ちる。震える吐息と嗚咽が漏れ出て、それでも明は笑ったまま。
夕は答えない。ただ微笑みを浮かべて、弱々しい息を漏らしているだけだった。
「直ぐに治療、しなきゃ。秋兄、笛でバカ共を呼んで――」
絶対に助けてみせる。一筋の希望に縋る彼女は秋斗に声を掛けるも、
「……明」
大切なモノから発された
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