暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
道化師が繋ぐモノ
[8/15]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 分からない。分からない。この戦場は夕を殺す為に仕組まれたモノで、終わりはまだ迎えていない。だってほら、あのバカが守ってるもん。
 もしかしたら油断を誘う行動かもしれない。いや、そうに違いない。敵は逃げる振りをして襲ってくるんだ。
 なら、此処は秋兄に任せてあたしが行って確かめないと。夕ならきっとそういう指示をするはず――――

「……明」

 走り出そうとした途端に、秋兄に腕を掴まれる。

「敵がこれからだまし討ちしてくるんだから殺さなきゃダメだよ?」

 当然、こんなとこで待ってる時間は無い。直ぐに敵に備えて動かないと。
 目を合わせたくなかったから、振り向くことなんかしてやんない。

「もう、来ないだろ」
「んなわけないじゃん、夕を狙ってるんだからさ」

 秋兄が守ってくれるから大丈夫。
 背中越しに掛かる声は感情が余り挟まれない……そう思わせてよ。なんであたしの事心配してんのさ。

「じゃあお前の兵士達に任せとけ」
「ダメダメ、甘いってば。夕なら確実に見切る為にあたしを行かせるもん。だから――」

 振り向き、笑いを返して、言い聞かす。頭のいい秋兄なら、それくらいの判断してくれると思った。
 なのに、途中で言葉が止まった。喉から声が出なかった。
 真っ直ぐに合わせられた目が……愛しいあの子と同じ黒い瞳だったから。

「……お前さ……自分が泣いてるの、気付いてるか?」

 感情を隠しながらの声を流して、彼はあたしの目尻をそっと拭った。血がべっとりと付いているのは片方だけだからか、綺麗なままの片方を拭った。
 指に乗せられてる雫は透き通っていて、血の色には染まっていなかった。

「え……? あ……」

 俯けば、地面に落ちた枯葉に円形のシミが一つ広がる。
 ポタリポタリとナニカが落ちた。あたしの心から抜け落ちて行くように、口から熱いナニカが吐き出された。

「う……ぁっ……」

 ぼやける視界でもう一度、置き去りにされたバカの死体を見やる。
 信じられなくて、信じたくなんか、ないのに。確認しても、動かなかった。戦場の音が一つも無くなったというのに……“何も動かなかった”。

――嫌だイヤダいやだイヤだ嫌ダ

 目頭が熱かった。吐きそうな嗚咽が喉を突く。息が荒くなり、胸が苦しくなった。膝から力が抜けて、ペタリと大地に座り込む。
 動きたくないから、理解したくないから、信じたくないから、知りたくなんか無いから。真っ先に向かっているはずのあたしは、ずっと、夕の側に行こうとしていない。

――嘘だ、違う。そんなわけない

 バカ共は命令に忠実に……“あたしを救うため”に叫ばなかった。あたしと、秋兄と、同じ思考が出来る夕は……あたしが無理やり来ると分かってたから叫ばせ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ