道化師が繋ぐモノ
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分からない。分からない。この戦場は夕を殺す為に仕組まれたモノで、終わりはまだ迎えていない。だってほら、あのバカが守ってるもん。
もしかしたら油断を誘う行動かもしれない。いや、そうに違いない。敵は逃げる振りをして襲ってくるんだ。
なら、此処は秋兄に任せてあたしが行って確かめないと。夕ならきっとそういう指示をするはず――――
「……明」
走り出そうとした途端に、秋兄に腕を掴まれる。
「敵がこれからだまし討ちしてくるんだから殺さなきゃダメだよ?」
当然、こんなとこで待ってる時間は無い。直ぐに敵に備えて動かないと。
目を合わせたくなかったから、振り向くことなんかしてやんない。
「もう、来ないだろ」
「んなわけないじゃん、夕を狙ってるんだからさ」
秋兄が守ってくれるから大丈夫。
背中越しに掛かる声は感情が余り挟まれない……そう思わせてよ。なんであたしの事心配してんのさ。
「じゃあお前の兵士達に任せとけ」
「ダメダメ、甘いってば。夕なら確実に見切る為にあたしを行かせるもん。だから――」
振り向き、笑いを返して、言い聞かす。頭のいい秋兄なら、それくらいの判断してくれると思った。
なのに、途中で言葉が止まった。喉から声が出なかった。
真っ直ぐに合わせられた目が……愛しいあの子と同じ黒い瞳だったから。
「……お前さ……自分が泣いてるの、気付いてるか?」
感情を隠しながらの声を流して、彼はあたしの目尻をそっと拭った。血がべっとりと付いているのは片方だけだからか、綺麗なままの片方を拭った。
指に乗せられてる雫は透き通っていて、血の色には染まっていなかった。
「え……? あ……」
俯けば、地面に落ちた枯葉に円形のシミが一つ広がる。
ポタリポタリとナニカが落ちた。あたしの心から抜け落ちて行くように、口から熱いナニカが吐き出された。
「う……ぁっ……」
ぼやける視界でもう一度、置き去りにされたバカの死体を見やる。
信じられなくて、信じたくなんか、ないのに。確認しても、動かなかった。戦場の音が一つも無くなったというのに……“何も動かなかった”。
――嫌だイヤダいやだイヤだ嫌ダ
目頭が熱かった。吐きそうな嗚咽が喉を突く。息が荒くなり、胸が苦しくなった。膝から力が抜けて、ペタリと大地に座り込む。
動きたくないから、理解したくないから、信じたくないから、知りたくなんか無いから。真っ先に向かっているはずのあたしは、ずっと、夕の側に行こうとしていない。
――嘘だ、違う。そんなわけない
バカ共は命令に忠実に……“あたしを救うため”に叫ばなかった。あたしと、秋兄と、同じ思考が出来る夕は……あたしが無理やり来ると分かってたから叫ばせ
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