道化師が繋ぐモノ
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人しか幸せにしない歪んだ悪人だと知っていても、自分が確かに生きていた頃のような平穏な国を世界に作りたいから、彼は黒き大徳を追い掛ける。
成り立ちが違う為に、戦う理由が違う為に、決してなれないと理解していながら……それでも、“そうあれかし”、と。
少し先、赤い髪が揺れていた。前々なら燃え上がっていた憎しみは、もう欠片も無い。
せめて一緒に戦えば何か分かるのではないかと、秋斗は敵を蹴り飛ばして手助けを一つ。
ただ、彼女は何も言わず、こちらを見もせずにより広い場所へと跳ねて行った。
また一人になった。
殺しても殺しても、敵の数は減ったように思えない。赤の少女の絶望はまだ終わらない。
彼女を救えるなら、あの子を救えるのではないか……そんな希望をすら込めている自分に嫌悪感が浮かび上がる。
一振りで力任せに、来る矢を二本切り捨てた。背後に迫る敵二人を回し蹴りで吹き飛ばし、右斜めに転げて矢を避け、膝を抜いた縮地と同時、真一文字に敵を割る。
どれだけ戦ったか分からないほど、敵の攻勢は重厚だった。
初めに見せていた怯えの心も、時間が経てば薄くなるは必至。戦い続ける自分達を見て、息を弾ませる秋斗や明を見て、敵は次第に狩る側の心を取り戻し余裕を持っていた。
向かい来る敵が居る限り彼の士気は下がらない。心に浮かぶ安息がある為に。
しかして、静かに、自身の心の温度が下がって行った。空が白み始めた事によって狂気が薄れ、感情が凍りついた。
今、何をすべきか。それだけに意識を尖らせよう……冷えた頭は目の前の敵を効率的に殺すだけの為に戦っていた先程までと違い、現状の把握を求めた。
――どっちを取る? 笛の音が聴こえた方か……それとも明の支援か……。
幸いな事にイカレた戦い方をしていたおかげで敵兵はこちらの方が少ない。明の方に大量に向かっているだろう。
なら、彼が無理矢理割っていけば夕の元へ行く事も出来るかもしれない。黒の外套を翻して彼が向かった先は……
「……っ」
白み始めた空で見えるようになった遠くの光景を目に居れた途端に、考えるよりも先に身体が動いた。
敵、敵、敵が見える。間に合うはずなのだ。自分なら、きっと間に合うはず。彼は願いと共に剣を持つ手に力を込めた。
「ク、ソがぁぁぁぁぁぁっ!」
夜明けの頃に、煌く長剣が黒の手からするりと放たれ……少女を殺さんとする敵を横合いから真っ直ぐ貫いた。
†
吹き出る血しぶき、力が抜け落ち膝から崩れ落ちて行く。
振り向いて確認した敵は、長い剣によって貫かれて絶命している。
前に跳んだことと秋兄が助けてくれたおかげであたしの背中は深くは切り裂かれず、どうにか命を繋ぐ事が出来た。
瞬時に回す思考は
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