道化師が繋ぐモノ
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を黒麒麟に戻してくれ!
切望の声は上げられるはずも無く、誰に怒りをぶつける事も出来はしない。
全ては自分の責任。記憶を失ったのも、この戦場を作り出したのも……そして雛里を泣かせたのも。
現実感が薄すぎた。過去に、嘗ての自分に、黒麒麟の幻影に追い縋り過ぎたからか、彼は記憶と自己認識が入り乱れてこの戦いが現実のモノに思えない。
浮世の出来事として、傍観者の視点で、“人”を外れた心でコロシアイに身を投じるだけ……自分の命さえ、駒のように扱って。
「クク、ひひっ、あはははっ! あははははははははっ!」
心の奥底からの叫びに反して、口から漏れ出る笑いは狂人のモノ。
戦いが、ヒトゴロシが、血が、臓腑が、脳漿が……目の前に作り上げる醜悪な現実が、嬉しくて嬉しくて。
一つ、二つと動く度に散る涙の雫の意味は……哀しいという感情だけで、何故そう思うのかが抜け落ちている。
ただ、一番大切な事は忘れていない。そのたった一つだけは、彼の中でブレる事は無かった。
――剣を振ればいい、それだけでいい、俺はあの子を……笑顔にする為に。
目を覚ました時、“彼女”は少し怯えていた。
自分が怖かったのか、別のナニカかは分からない。
けれども彼女は後に笑ったのだ。嬉しい、と弾けんばかりの感情を広げて。
頭を撫でた時、恥ずかしそうに照れながらはにかんでいたのだ。淡い想いを瞳に浮かべて。
――なのに……俺が絶望に落とした。
あの瞬間を秋斗は一生忘れない。
一瞬で光が抜け落ちる瞳も、歓喜が悲壮に堕ちる表情も、ボロボロと零れ落ち始める涙の雫も……。
想ってくれていた少女の心を救いたくて、せめて何か一つでも返したくて、そしてもう一度……華開くような笑顔が見たいから、
彼はたった一人の為に剣を振る。
自己乖離で狂いそうになるギリギリのハザマで、心と思考を繋ぎ止めているのは笑顔と泣き顔。
ヒトゴロシという究極の理不尽を行っても戻れないという現実に打ちのめされても、彼は諦める事は無い。
道化師は一人、舞台で舞い踊る。狂ったように笑いながら、人の命を奪いながら、自身の心を分かちながら……黒麒麟に戻れない絶望を心に、あの子を救えない絶望を心に。
――剣を振ればいい。そうすれば俺は近付ける。戻るまでの間でも、俺は黒麒麟になりてぇんだ。
彼だけの想いはもう一つ。
兵士達が憧れる英雄の幻影。誰かの為に涙を流して、誰かの為に心を砕いて、誰かの為に戦って、誰かの為に命を賭ける。
自分もなりたいと思うそんな姿。自分が救われたいのではなく、自分以外の多くを救えるような人になりたいのだ。
これはただの欲。子供が勇者に憧れるように、ヒーローに憧れるように、彼は黒に憧れている。ソレが生き残る
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