道化師が繋ぐモノ
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てきたのだ。
信頼を向ける黒瞳と金色。どちらか選べと、二人は問うているかのよう。誰もを救える未来など、もはや残されていない。
「……だから……どけ、明。夕の心を救いたいなら、願いを叶えたいのなら」
目を細めて睨みつけた。そうすれば、唇を噛みしめた明は夕を抱き締めた。武器を取ることなく、まるで一緒に死ぬと、そう言うように。
「ヤダ……ヤダよぅ……死なないで、殺さないで、いかないで……」
「あのね、明」
ぽつりと夕の口から言葉が漏れる。嫌だ、いやだと小さく繰り返している明の耳に入っているかも気にせずに。
「あなたに出会えて、私は幸せだった」
「……」
穏やかな声は耳に優しく流される。ピタリと、明の呟きが止まった。
「あなたに出会えて、私は楽しかった」
もう力も入らないだろう震える腕をどうにか上げて、夕はさらりと赤い髪を一つ撫で、
「あなたに出会えたから、私は“生きる”事が出来る」
滑らせた白磁の掌を、そっと彼女の頬に添える。
「だから、思い出を、無くさないで。嘘にしないで。あなたの心の中で、生きさせて」
死んでしまっても、ずっと一緒に居た明の中で生きられるからと、
「この世界を嘘にしないで。確かにあった想いを嘘にしないで。あなたの幸せが私の幸せ……あなたの為に、私の為に」
記憶に残れば想いは生きて、この世界に生きた証が残される。
「そうすれば一人じゃないよ。せめてあなたと共に、生きたいの」
前を向いて歩けない少女の心に寄り添って、残した想いを生かしてほしい。それが夕の願いで、救い。
「……お願い、私の大切なお姫様」
最後の言葉の後、ギシリと歯を噛み鳴らして、明はもう一度、夕に口づけを落とした。
そうして、グイと涙を拭い去ってから……笑った。
「ふふっ……りょうかい、だよっ……あたしの大切な、お姫様」
優しく地に夕を寝かせた明は立ち上がり、俺の手を取った。
「でも……秋兄だけになんか……させてあげない。あたしも夕の命を食べる」
一寸だけ呆然とした夕は、ふっとまた笑みを漏らした。
「……ありがと、明……大好き」
此処には救われない少女が二人。
俺が救えない少女が一人。救わなければならない少女が一人。
明と二人で剣を握った。血が出るのも構わずに刃を短く持ち、強く握りしめた。
浅い息は命の灯が消える寸前を表し、安堵した表情は安息に包まれて。
「秋兄……最期に、あの言葉が……聞きたいな」
向けられた声は優しく弱く、彼女が慕っていたという男を表すモノで、俺にもそれ在れと願いを込める。
笑え、笑えよ。
心の中で呟いて、頬に涙が伝ってくるのも構わずに、俺は口を
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