道化師が繋ぐモノ
[13/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
りに異常なその発言が、笑顔を作っていた明の心を打ち砕いた。
目の前で大切な人が殺されるなど……耐えられるはずがない。
また止まる事の無い涙を零して、明は夕の身体に縋りつく。大切な宝だというように、ぎゅっと強く抱きしめて。
夕は自分がこのまま死んでは、明が耐えられないと悟ったのだ。漸く自分が作られたのに、自分を抑え込んだ上で大切なモノを消失してしまっては、また振り出しに戻るだけだと。否、もっと酷い事になると、一番近くに居たから気付いているのだ。
なんて、残酷な救い方。自分に向けられる心を無視して、明がこれから人として生きていけるように……そんな、救い方。
一人のこれからを救うために自分を殺せと、夕はそう言っている。
「死なないでっ! いかないでっ! 一人にしないでっ!」
泣き縋る明を退けて無理矢理殺せば、俺に少しでも憎しみを向けてこれから生きる活力が出来るかもしれない……そんな希望も込めているんだろう。
確かにお前は優しくなくて、黒麒麟の同類だ。こんな……こんな救い方があるかよ。こんな救えない終わりが、あってたまるかよ。明を絶望させて救うなんて……そんな救い方ってあるかよ!
このまま俺が何もせずに夕が死ねば、明は張り裂ける心に耐えきれず壊れるだろう。もう、生きていけないくらいに。夕から生きてと言われたからと、本物の人形になってしまう。
――だから俺に殺せと、明のこれからを守る為に遣り切れと……お前はそう言うのか、夕。
「明、聞いて?」
「やだ! やだやだやだやだ! 聞きたくない! 夕が居ないと意味ないもん!」
子供のようなわがままを言う明は、本当の自分が曝け出されている。
この子の目の前で殺す事など、出来るわけがないだろうに。でも……俺が黒麒麟になるなら……しなければ、ならない。
俺が想いを繋ぐなら、死に行く夕の為に、生きていく明の為に……殺さなければならない。そうしなければ……誰も救えない。
夕は俺に賭けた。俺は……俺に賭けるしかなくなった。
すらりと剣を抜き立ち上がると、明の身体がビクリと跳ねた。困惑と、悲哀と、絶望と、焦燥と、憎悪とが混ざり合った視線。先ほどまでの平穏な時間など、まるで無かったかのような。
「秋、兄? 殺さないよね? だって秋兄はこの子を一緒に助けてくれるって言ったじゃんか」
「……そうだな。俺はこの子を救わなきゃならん」
声が揺れた。なんでこんなに救われない?
膝が震える。なんでこんなに絶望しかない?
視界がブレる。なんでこんなに……苦しみしかない?
人は平等に幸せになる事なんざ出来ない。こいつらも人を沢山殺してきた。殺した相手は、関わったモノ達は、不幸になっただろう。
でも、こいつらも幸せになりたくて、それでずっと足掻い
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ