道化師が繋ぐモノ
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自分が救えないのは分かっていた。だからせめてと、明は夕の心の安息を願い、自身のわがままを全て零さない。想いを残せるように。彼女が死の間際でも自分達の生きた時間を感じられるように、と。
離れた唇から零れる吐息は熱っぽく、夕は穏やかに微笑んだ。返す笑いは舌を出して、明の食べたいモノは、此処には無かった。
「そろそろ、ダメ、みたい」
ずっと続くはずの無い瞬刻の平穏は、黒の少女の口から終わりを告げられる。
ズクリ、と明の鼓動が跳ね……それでも涙を零さなかった。例え見えなくとも、彼女に笑顔を見せていたかったから。
「明……」
「うん」
「愛しいあなたに、願いを掛けよう」
「うん」
紡がれる声は弱く優しく、思わず抱く腕に力を込めた。
「生きて、生きて、生き抜いて……そうして幸せを、掴んで欲しい」
――――私はあなたが幸せになってくれたら、それでいい。
まるで入れ替わったような願い。欲張りになった赤と、ただ彼女の幸せを願う黒。本当なら自分がそう言うはずなのにと……明の心が悲鳴を上げた。しかし彼女は自分を出さない。
――あなたが死んだら、あたしは生きてる意味が無い。なのに……あたしに生きろって……言うの?
答える事が、出来なかった。絶望に暮れる表情で明は夕を見つめていた。
「秋兄……恋しいあなたに、想いを託そう」
黒瞳に灯る光は大きく強く、彼を求めるかのように上げられた震える腕を、優しく握った。
「明を……よろしく。この子を助けられるのは、あなただけだから」
「……ああ、分かった」
自分が居なくなれば持たない少女が生きられるように。そう聞こえる願いが一つ、彼にそっと届けられた。
初めて託された想いを胸に、救えなかった絶望を胸に……彼の目から……すっと、涙が流れた。
満足したのか、夕は晴れやかな笑みを浮かべた。
夕は、弱々しい声を聞きとろうと顔を近づけていた秋斗の額に、口づけを一つ。
「おまじない……あなたが強く、有れますように」
彼も彼女も、そのまま看取るだけだと……思い込んでいた。夕が明のこれからを、予想出来ないはずがないのに。
「優しい人。あなたが想いを繋ぐなら……してほしい事が、一つある」
穏やかな場に疑問が一つ。人の心を操る少女は、赤の救い方を間違えない。
「私を……殺して。敵じゃなくて、あなたの手で、殺されたい」
眠るように死を迎えるよりも、彼の手で殺される事を夕は望んだ。
バキリ、と何かが壊れる音が響いた気がした。聞いたのは明で、もう……自分を抑えることなど、出来なかった。
†
「や、だ……ヤダ! ヤダよ、夕っ!」
殺してくれと紡がれた死に際の願い。余
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