道化師が繋ぐモノ
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まで、欲張りなだけ」
「クク、ならさ、俺と同じだ。俺も優しくなんかないからな」
「ふふ……じゃあそれで、いい」
穏やかな日向に居るように、二人は他愛ない会話を続けて行く。
自分は? と明は必死に涙を抑えようとして……それでも笑えなかった。
「……あたしね、夕と同じで欲張りに、なったよ?」
「明も、一緒?」
「そだよ。あたしは、夕と一緒に、下らなくて、でも楽しい平穏な、世界で生きてたい。いっぱい、幸せが欲しい」
掠れた声、しゃくりあげながら、嗚咽を漏らしながら、涙を流しながら。ただ彼女が生きていればそれでいいと願った明の願いは変化を伴うも、やはり夕が居なければ叶わない。
しかし違うのは、自分も幸せになりたい、そう願う心があるかないか。
震える唇は、そんな自分になったから、夕が望んだ通りの自分になれたからとだけ伝えて、話を変えた。
「……秋兄ってば、さいてーなんだよ? 女の子泣かして、ばっかりなんだって」
せめて、下らなくも愛おしい平穏を、少しでもこの場に作りたくて。
「む……他の子は知らないけど、明を泣かすのは、許さない」
「……おい夕、なんで俺が明を泣かすって言いやがんだよ」
「秋兄は、女たらしだから、きっと明も落ちる」
なんでもない事のように言って退ける夕の言に、明は驚愕を隠しきれず……漸く涙が止まった。
「あたしが? んなわけない、もん」
「まだ、その程度だと思う。でもきっと……変わるよ?」
「……そう、かな?」
「きっと、そうだよ」
あれほど変化を嫌っていたというのに、少し変わった自分を自覚したからか、明は自然とそんな可能性もあるのではないかと思えた。
笑えるほど呆気ない。そして、下らなくて面白くて楽しい会話だと思った。故に……明はグイと涙を拭って……悪戯好きな少女の笑みを浮かべた。
「じゃあ秋兄、ちゅーしよっか?」
「はあ? 却下だバーカ」
「なら私と、する?」
「それも却下。ってなんでこんな話になってんだ……」
自分に出来るのは心をそのまま言葉を零すだけだと分かっているから、彼は呆れたようにため息を一つ。
彼の気遣いを間違うことなく、彼女達もこの場が崩れないようにと続けた。
「夕ぅ、振られちゃった……うう、泣きそう」
「ほら泣かせた。秋兄はさいてー」
「おいこら明、嘘泣きすんな」
「ふーんだ。もういいよ。夕とするからいいもーん」
いつも通りの自分で、いつも通りの平穏を。さすれば明が夕に想いを向けるのは当然で……締め付けられる胸を抑え付けながら、
「ん……」
愛しい少女に口づけを落とす。
――いかないで……
はらり、と一筋だけ零れた涙は、絶望の一滴。
もう、彼女が助からないのは、
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