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クルスニク・オーケストラ
第十三楽章 聖なる祈り
13-1小節
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たのに”


 俺たちクルスニクを憂えての本気の涙。それを、骸殻も持たない、社会人に成りたてのただの少女だったヴェルに流させるほどの女だった。

 そんな女に恋われた。俺みたいなろくでなしが。それを人生最大の誇りにしよう。

 今、行く。お前の最期の力、借りるぞ、ジゼル。







 最初の難関はクロノスが用意した、時空が歪んだ迷宮だった。マクスウェルが自分の四大精霊を使えば4人は行けると言ったが、必要なさそうだ。

 要するに瘴気を浴びる前に最短時間で迷宮を抜ければいいんだろう?
 それなら簡単だった。ほら。迷宮のあちこちに《道案内》が――今日まで時歪の因子(タイムファクター化)化で消えた俺の同僚たちが立っている。


 “友達みたいで、でも友達じゃなかった私たちですけど、室長に憧れた気持ちは同じですから”
 “だから、死んでも離れない、なんて、冗談みたいなことが叶いました。行ってらっしゃいませ、室長”

 “しつちょー! こっちこっち! オレは補佐のおかげで死んでも音楽やってられましたから”

 “室長。こちらです。――お戻りになったら、カールとシェリーによろしくお伝えください”

 “室長。帰ったら……きっとヴェルさん、泣いてると思うので、よければ慰めてあげて、ほしい、です”

 “へえ。あのボンボンがイイ顔するようになったじゃん。ほら、行きなさい。もうすぐだよ”


 瘴気迷宮のあちこちに部下だったり元先輩だったりした人々がいたから、方角を見失うことはなかった。


 “俺たちの願いを”

 “私たちの祈りを”

 “どうか”

 “あの地まで”


 ああ。分かってる。分かっていますよ、《先輩方》。あなたたちだってジゼルごと継いだんだから。

 ここに辿り着き、ここで終わりを見る。どれだけの先祖がそれを願って抗ったか、それを見過ごせなかったジゼルの気持ちごと、よく分かる。

 改めて誓う。全ての悲しいこと、辛かったこと、今日この日で、2000年分のそれらを終わりにする。
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