第16話 最後の実験を
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「ま、とにかく、昨日の一件のおかげ……まあ、おかげだな……そのせいでな、拓州会はこの案件から手を引いたよ。拓州会がここまでぶっ飛んだ以上、これからこの案件に手を突っ込もうってヤクザもおらんだろう。警察も、公安も、日本赤軍に追われきりの今、この案件を解決できるのは、完全に俺たちだけになった」
《そうですね》
「いや、俺たちというより、お前、だな。局長はお前に任せてるから。しっかり幕を引いてくれよ。途中で人に投げるのは、ナシだぜ〜?」
《……分かってます、そんなこと》
「なら良いや。できるだけ早く頼むよ」
古本なりの檄に、電話の相手は少しムッとしているような返事を返してきたが、古本はそんな事気にするでもなく電話を切った。言われた事をするだけでなく、自分の意思で行動し、求められる結果を出す。上戸が今回、あいつに求めたがっているのは、そういった部分だ。自分の判断で動く。つまりそれは、自分で責任をとるという事だ。自由とは、自らに由るということ。成功も失敗も全て、自分によるものだと受け止める事だ。釘を刺すまでもなく、分かっている事だろう。だが、古本は、あえてこの事を言っておきたかった。自分が、あいつと同じ歳の頃には、その事をまだ実感できてはいなかったし、あいつも、これからその事を実感するのだろうと思われたから。
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「買い物に行ってくるわ」
「そうか。じゃあ俺は、食器洗っとくよ」
「お願いね」
小倉が朝目が覚めた時には同じ布団に高田の姿はなく、代わりに台所からモノを焼く音がしていた。自分よりよほど早く起きだして、昼食を作ってくれていたようだった。振舞われた出し巻き卵は、やや形が崩れていたが、それもご愛嬌というもの。久しぶりに食べたキチンとした朝食は、不思議と美味かった。ただ、一人暮らしなので元々それほど蓄えはなかったのだろう。2人分の卵と味噌汁、漬物を消費しただけで、冷蔵庫の中がスッカラカンになってしまった。よって高田は今、買い物に行くと言い出したのである。高田と一緒に部屋を出て、自室に帰っても良いのだが、小倉は留守番をする事にした。昨日あんな事があった以上、自分の部屋に帰りたいとはあまり思わなかった。もしかしたら、お礼参りがあるかも……
「……まだ少し、不安?」
小倉の思いを見透かしているのか、高田が尋ねる。小倉は強がる気にもなれなかった。
「……そりゃ、ヤクザとあんな関わり方したのも初めてだし。ちょっと外に出る気にも、家に帰る気にもなれねえよ」
「そう。……そりゃ、そうよね」
高田はハンガーにかけてあったコートを羽織り、小さな鞄を肩にかけた。部屋から出て行く前に、小倉の方を振り返った。
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