第5話 颯馬「働きたくないでござる」
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いた。
いくら賢そうに見えても彼女はまだ幼い……自分の人生を――いや、兄や、周りの人間の人生まで巻き込む決断を迫られて――迷うなと。何かの縋るなとは……誰にも言えないだろう。
「俺も……迷った」
助けになるか分からないが俺は自分の経験を聞かせた。
「俺には二つの道があった。1つは人として生きるか、もう1つは人である事を捨て、修行を積み、天狗となるかのどちらだ。それを決めるのは自分だった」
「そして……決めた。天狗になることを……他ならない自分で決めたんだ。後悔はしていない。だから、自分で決めるんだ。そうすれば……後悔はしない」
「そうか……そうだな、私の後悔しない道、それを選ぶしかないのだな」
女の子はそれきり黙りこんで、焚火の火を見つめていた。
翌朝……いつの間にか眠っていた俺が目を覚ますと、彼女は告げた。
「決めたよ。私は還俗し家にも戻ることにする」
その顔は、昨夜見たものより晴れやかだった。
「還俗するに当たり、一つの誓いをこの山の神に立てたいと思う」
「しかし、この山に神は……」
「いや……私にとっての神は道を示してくれたお前だよ。だから、おまえに誓いを聞いてほしい」
「…………分かった」
「世は乱世と聞く……預けられた寺にも、つらく悲しい話は聞こえてきた。そんな世は早く終わればよいと仏に拝んできたが……もう、拝むばかりの暮らしはやめる。自ら動いて、少しでも世を良くしていきたい。そのために、私は還俗し越後の混乱を収める」
まっすぐな瞳には強い意志が感じられた。
その意思を理解したうえで深くうなずき、答えを返す。
「その誓い……確かに承った。その想いが挫かれることがないよう。いつまでも見守ろう。そして……誓おう……君の心を憂いが満たし、心が挫けて誓いを果たせそうになくなったら……駆けつける。例え、この命が消えようとも、その憂いを晴らし、君は誓いを果たせるように……力になる。この誓いを受け入れてくれるなら、この鈴に口付けをしてほしい。さすれば、鈴は君の心を写す鏡となり、君の心が憂いているか、喜びを感じているか、その音を確かめれば分かる。君がどこにいても駆けつけることができる」
「…………分かった」
彼女は鈴に口付けをして渡してくれた。
「ありがとう。誓いを受け入れてくれて」
「礼を言うのはこっちだ。君のおかげ俺は生きながらえた」
会話の後、お師様が帰ってくるとこの事を話した。
それを聞き、お師様は申し訳なさそうな顔をしながらこう言った。
「すまないが、ここでの事は夢にさせてもらう。覚えていられると、少し良くない事になるのだ」
「構いません。誓いを聞いてもらえたし、颯馬なら誓いを果
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