第5話 颯馬「働きたくないでござる」
[1/6]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「時間はとうに過ぎているのに……まだいらっしゃらないのか?」
軍議の時間なのだが、景虎様が一向に姿を現さない。
軍議の前、景虎様は場内に作られた毘沙門堂にて瞑想される。
いつもならば時間通りにこられるのだが……。
「お呼びした方がよろしいでしょうか?」
「いや、毘沙門堂に近寄るのは私や定満殿でも禁じられている。やめた方が良いだろう」
へー、そう聞くと近づきたくなるのが人間というものだ。今度こっそり、近づいてみようかな? こういうのってヒヤヒヤして胸が高まるよな。
今頃、景虎様は神でも降ろしてるのかね? 熱心だねえ……。俺は信仰とかそう言うのは信じていない人間だからな……。にわかに毘沙門天とか信じられん。まあ、この前引き合いに出したが、アレはその場を乗り切るための手段だからなしだ。
襖が開かれ景虎様が軍議の間に入ってこられた。
「皆、待たせた」
「景虎様、お待ちしておりました」
「颯馬、私はもう景虎ではないぞ?」
「あ……そうでした。謙信様」
「……うむ」
新しい名は、元からある名のように馴染んでいた。
越後統一後、新たな大名となった景虎様を頼って越後に逃げてくる者達がいた。
景虎様は彼らを迎え入れたが、その中に鎌倉公方に繋がる1人の姫が含まれており、この方の働きにより、景虎様は関東管領の役職を賜ることになった。
しかし、それには家格があわないと言い出す者もおり、長らく関東管領の役職を受けてきた上杉家と養子縁組と言う話が出た。
景虎様はこの話を受け入れられ、名を「上杉謙信」と改めることになった。
「本日の議題だが、現在関東で勢力を固めつつある北条家について話したいの思う。皆、意見はあるか」
「関東管領を継がれた今――」
家臣たちが関東管領の役目など、出兵の話などしているが今日限りで此処から去る予定の俺にとってはどうでもいい話だ。誓いは景虎様の心から憂いを無くす事だ。越後は統一したという事は、景虎様の心からも、憂いが消えたと言う事だ。俺の仕事は終わりだ。
はあ、眠いな……。思ったんだけど、俺ってもうお役御免じゃね? 軍議に出る義務もないし、帰っていいかな? 働きたくないでござる。
「ふむ、しかし、関東管領についた以上、関東の安寧を保つのは私の責務である。疎かにはできぬ。定満、颯馬、お前たちはどう思う?」
やべ、聞いてなかった。あれか? 北条がどうのこうので関東出兵がどうたらだろ?
今、北条は内に火種を抱えている。様子見が良いと思うが……攻めるのも悪くはないが、時期が時期だ。
越後がまとまってまだ日が浅い。下手に留守にすると隙を突かれかねん。
謙信様無くば軍は成り立たない。兵を残して留守番させてもすぐに落とされるだろう
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ