黎明の光が掃う空に
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明が捕えられてから三日目の夕刻。
袁紹軍の兵士達は動揺を隠す事も出来ずに士気は下がる一方であった。
袁家でも最強の将が捕えられた……例え数が多くとも、その事実は彼らの心を敗色に染め上げるには十分。ただ、重鎮達は彼女の事を信じている為に、士気が落ちるまではいかない。
そんな中、夕は急な軍議を開くとの麗羽から言われて、大将の天幕内に来ていた。
そわそわと身体を揺らす猪々子。不安が全面に出ている表情で悩ましげな斗詩。そして……王たるモノを示すかのように優雅な仕草で椅子に座っている麗羽が迎えてくれる。
「お疲れ様ですわ、夕さん」
久しく口に出した真名は親しみを込めて。己が王佐と呼ぶに相応しい少女を愛おしげに見つめ、麗羽が柔和な微笑みを浮かべた。
幽州に居る時に買った魔法瓶から、斗詩が夕の分のお茶を注いでいく。
柔らかい香りが僅かに広がり、湯飲みを受け取った夕は黒瞳を麗羽に向けた。
「ん、麗羽もお疲れ。人払いまで済ませて……なにかあった?」
一言の問いかけ。主に溢れるは歓喜の色。揺れる瞳も、震える唇も……何を思ってかは容易に読み取れる。
反して、夕の心は落ちくぼんで行った。
――やっぱりそう来たか。あのクズめ。
長い間戦ってきた敵である。
何を狙っていて、どういった結果を求めて、どういった策を用いて……自分を殺しに来るかなど手に取るように分かった。
「夕さん。遂に……遂に連れてくる事が出来たのですわ!」
「……何の話?」
誰を、とは聞かずとも分かるが、夕は話を促した。出来る限り、知らない振りをしながら。
斗詩はその様子に僅かな疑問を感じるも、明くらいでなければ夕のことなど読み切れない。
「斗詩さんが内密に調べておりましたの。且授さんの命を救える程の医者……神医“華佗”を、南皮に連れてきた、と報告がありまして……」
「……っ」
目を見開く、息を呑む、身体を震わせる……その全てが、夕の演技。
知らなかったと思わせて、彼女達の心をこれ以上無く安堵させようと。
さすがに杞憂だったかと、斗詩はほっと安堵の息を零した。
一滴の涙を目尻に浮かばせた麗羽は、すっとたおやかな仕草でソレを払った。
「ひ、姫? マジで?」
あんぐりと口を開けていた猪々子は徐々に頬を緩ませて歓喜に染まる。斗詩も、漸く彼女が報われたのだと、涙を浮かべた。
「ごめんね田ちゃん……黙ってて……」
「……いい。私達の為にナニカしてくれてるって、分かってた」
浮かべる涙も嘘、震える声音も嘘。
――“南皮に連れてきた”。他の所で、誰にもバレないように連れて来てたなら、まだ救いがあった。
ただ思いやりの心と、絶望に震える手だけは本物であった。
――お
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