黎明の光が掃う空に
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あうだけの関係性。それ以上は求めないし、それ以下には絶対にならないという利の話。信頼はしなくていいから信用しろと、彼はそう言っているのだ。
後に彼は膝を折って、朔夜の頭にぽんと大きな掌を置いた。
「引き止めてくれてありがとよ。でも、ごめん」
「あなたが、命を賭ける必要が……」
ふるふると首を振る朔夜。外套を掴む小さな手を、そっと彼は包み込んだ。
「……俺は徐公明だからな」
訳が分からない物言いに、答えを求めるのは当然で……しかし彼の言を読み解けるモノなどこの世界に居るはずも無い。
ただ、ニッと笑ったその表情は自身の生存を疑っていない。
「負けも討ち死にも、まだまだしてやるわけにはいかんのさ。例え相手が誰であれ、敗北必定の戦であれ……」
与えられた名前は不敗の将軍と呼ばれた史実では負け無しの男。
なら……今の彼はそうあれかしと願い、乱世を駆けるだけであろう。
捻じ曲がったこの世界で、より大きく、強く在る為に……待ち構える壁は壊すだけ。
「信じて待っててくれ、朔夜」
力強い瞳の輝きは、曲がる事の無い意志を。
優しい微笑みは、想ってくれるモノへの感謝を。
――それでも、いや、です。
もはや何も言う事が出来ず、しかし心が拒絶を示す朔夜は手を離せなかった。
ふいに、後ろから抱きしめられる。いきなりの事に手を緩めてしまい、それを見逃す秋斗でも無く、優しく手を解いて立ち上がった。
「……っ」
「任せた、妙才」
「ああ、遣りたい事を遣り切って来い」
朔夜の小さな背に回された腕は力強く、引きはがす事など到底出来ない。
ぽろぽろと涙を零す少女に心を痛めながらも、秋蘭が上げた片方の掌に自分の掌をパチンと一度だけ合わせてから、秋斗は明と共に歩いて行った。
「朔夜、背を見送るのも役目だ。お前はあいつと並び立ちたいのだろう? なら……お前も仕事を遣り切らなければな」
諭すような声音。静かで張りのある声に、するりと手をすり抜けて掴めない事が悔しくて……きゅむきゅむと追いすがりたいと伸ばした掌を握る。
自分の事を一番に思ってくれるなら残ってくれるのかと浅はかな欲望が沸き立つも、嫌悪感と無力感がないまぜになった心はどうしようも無く、朔夜は身体の震えを抑えられず……
「ぅぁ……っ……」
大きな、大きな泣き声を張り上げた。
月の輝きに照らされる、見る者に嘆息を付かせる程に美しい漆黒の毛並み。額に浮かび上がる三日月模様は夜天に浮かぶ王の如く。
大きくしなやかな体躯は、誰であろうと何処へでも運んでくれると期待を浮かばせ、なるほど名馬だと頷く他ない。
彼が相対するは嘗ての相棒にして、黒麒麟の名を冠した由来……月
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